eぶらあぼ 2018.4月号
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82CD『わたしの好きな歌』日本アコースティックレコーズNARD-5063¥3000+税©Mori Yutaka高橋薫子(ソプラノ)オペラ・アリアから日本歌曲まで大好きな曲を集めて取材・文:岸 純信(オペラ研究家)Interview 朗らかで涼やかな声音が聴く人の心を捉えるソプラノ、高橋薫子。藤原歌劇団のプリマドンナとして活躍する彼女が、このほど待望のニュー・アルバム『わたしの好きな歌』を世に送る。選曲は日本語とフランス語の歌曲が中心だが、その理由とは? 「以前、恩師のマリア・ミネット先生が『貴女の声にはフランス歌曲も合うわよ』と勧めて下さり、フォーレの〈月のひかり〉やアーンの〈もし僕の詩に翼があったなら〉などたくさん教えていただきました。その後、いろんな歌手の方と共演する際に、テノールの人がカンツォーネを歌うことが多く、それなら私は、違う世界へ連れていってくれるフランスものを選ぼうかなと思ったのです。すると、確かに客席の空気が変わるんです。いま流行りの“草食系”という言葉に近いのかもしれません。ただ、フランス人は表向き草食系でも中身はラテンだなとつくづく思いますね(笑)。嫌いではないですよ!」 オペラでもグノーの《ロミオとジュリエット》など、フランスものの当たり役を持つ高橋。今回も、有名な〈ジュリエットのワルツ〉を収録している。 「最初は歌曲に絞ろうと思いましたが、プッチーニの《ラ・ボエーム》の〈ムゼッタのワルツ〉を入れて欲しいという希望があり、ならばもう一つアリアをということでジュリエットのワルツを選びました。運命の人に出会う前の、屈託のない若さの象徴のような1曲ですね」 ところで、いま名前が出たムゼッタは高橋の最愛の女性像なのだとか。 「大学院の修了論文もムゼッタをテーマにしました。好きな人に意地悪しても本当はとても心優しい女性。共感する部分が多く、歌っていてグッときます」 今回は、大学の同級生でもある河原忠之がピアノを担当。《ラ・ボエーム》の世界のように、高橋と河原も互いに切磋琢磨してきた良き仲間である。 「草川信さん(岩河智子編)の〈揺籃のうた〉は、河原さんから『こういうのも歌ってみない?』と譜面を渡された一曲です。日本歌曲にはいろんな個性がありますね。木下牧子さんの〈竹とんぼに〉の爽快感とか、中田喜直さんの〈たんぽぽ〉のフレンチな味わいとか。神津善行さんの〈私は小鳥〉は、あの美空ひばりさんの『私もオペラみたいに歌ってみたい』というリクエストから生まれた曲だそうで、劇的な部分が多くて、私が普段歌うものとは違います。河原さんも『どうやって感じたらよい曲なのかな?』と何度もピアノに向かわれて…。結果として、私たちに新しい刺激をくれるメロディになりました。お聴きいただければ嬉しいです」4/19(木)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com/異才たちのピアニズム ――ピアノ音楽の本質を伝える才知との邂逅トーマス・ヘルドイツが生んだ異色のヴィルトゥオーゾが帰ってくる!文:飯田有抄©藤本史昭 トッパンホールが開催している「異才たちのピアニズム——ピアノ音楽の本質を伝える才知との邂逅」。音の繊細な立ち上がりと伸びのよさを伝えるトッパンホールが、確固たる理念と高度な音楽性をもち、伝統とアカデミズムに裏付けられたピアニストとの出会いをもたらしてくれるコンサートシリーズだ。 第3回に登場するのはトーマス・ヘル。リゲティ作品の演奏で「知性とヴィルトゥオージティの両面を兼ね備えている」とブレンデルから賞賛され、2016年6月には日本の聴衆を驚愕させたヘルが、ふたたびトッパンのステージに帰ってくる。 曲目はシューマンの「クライスレリアーナ」と、アイヴズが引用やクラスターといった音楽語法を用いた彼の代表作「ピアノ・ソナタ第2番」(通称コンコード・ソナタ)という、かなり異色の取り合わせ。ヘルの朗然たる知的処理に基づく叙情性が、19世紀と20世紀の二つの傑作の結びつきを発見させてくれることだろう。
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