eぶらあぼ 2018.4月号
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60下野竜也(指揮) 東京都交響楽団ボブ・ディラン作詩、コリリアーノ作曲の歌曲を日本初演文:江藤光紀第855回 定期演奏会 Bシリーズ5/22(火)19:00 サントリーホール問 都響ガイド0570-056-057http://www.tmso.or.jp/ 現代音楽は下野で聴きたい。独自の感性による時流を押さえた選曲が、“面白さ本位”で新鮮だ。 アメリカの作曲家ジョン・コリリアーノとは旧知の仲の下野、これまでにも何度も作品を取り上げてきた。今回、作曲家80歳の記念年に下野が日本初演する管弦楽伴奏の7つの歌曲集「ミスター・タンブリンマン——ボブ・ディランの7つの詩」(2003)は、すべてボブ・ディランの、しかもヒット作として知られている曲の歌詞に基づいている。 一昨年のノーベル文学賞にみられるように、ボブ・ディランの時としてメッセージ性を含んだ歌は大きな影響力を持ってきた。同じ時代の空気を吸ってきたコリリアーノはこの歌曲集でディランの歌詞に完全な再創造を施し、時にオペラティックな表現力を要求するソプラノ・パートを、豊かな描写力を備えた管弦楽で彩っている。囁くような語り掛けがユーモラスな楽想に展開する表題曲「ミスター・タンブリンマン」に始まり、「物干しづな」「風に吹かれて」で静かな中にメッセージ性が高まっていき、「戦争の親玉」「見張塔からずっと」で反戦の気分は緊迫した絶叫や強烈な風刺と化す。この張りつめた気分は「自由の鐘」で緩み、終曲「いつまでも若く」では懐かしさを湛えたエンディングが導かれる。独唱のヒラ・プリットマンはアメリカ現代作曲家の歌曲を数多く手がけており、本作品の録音では2008年にグラミー賞を受賞している実力者だ。 前半はメンデルスゾーンがイギリスを旅した時に着想した交響曲第3番「スコットランド」。第2楽章には木管に素朴な民謡風の旋律が現れるなど、シンフォニックな中に素朴な美しさを湛えている。ヒラ・プリットマンディオティマ弦楽四重奏団 バルトーク弦楽四重奏曲全曲演奏会バルトークの6曲を一晩で弾き切る衝撃のクァルテット文:片桐卓也6/12(火)18:30 横浜みなとみらいホール(小)問 横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000 http://www.yaf.or.jp/mmh/ ベートーヴェンの至高の弦楽四重奏曲集に比肩する存在と言われるバルトークの6曲の弦楽四重奏曲を、一晩で弾き切ってしまおうという団体が登場する。それがフランスのディオティマ弦楽四重奏団である。2015~16年に彼らがショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全曲演奏会を横浜みなとみらい小ホールで展開したことも、まだ記憶に新しいが、その同じ会場で、今回はバルトークの6曲の全曲演奏に挑むのである。 ディオティマ弦楽四重奏団は、パリとリヨンの国立高等音楽院で学んでいた4人の弦楽器奏者が1996年に結成した弦楽四重奏団。以後、積極的に最先端の音楽に挑戦し続けており、ブーレーズ、ファーニホウ、細川俊夫などの作品の演奏において高い評価を獲得しているし、それだけでなく、古典から20世紀の作品まで、幅広いレパートリーに見事な解釈を施した演奏を聴かせてくれるグループである。それだけに今回のバルトークの全曲演奏会は楽しみな企画となる。 難曲として知られるバルトークの弦楽四重奏曲を、第1番から第6番まで、その作曲過程を追うように聴いていくことができる訳だし、創作の変化、時代の移り変わりなどの要素が様々な形で彼らの演奏に表現されるに違いない。それはまさに作品と共に生きるという、音楽だけに可能な体験を聴き手にもたらしてくれるはずだ。気鋭のディオティマ弦楽四重奏団ならではの鋭い演奏を期待し、その現場に立ち合いたい。下野竜也 ©Naoya Yamaguchi (Studio Diva)

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