eぶらあぼ 2018.4月号
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57アレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団ストラヴィンスキー「ペルセフォーヌ」日本初演猛将ラザレフ、ストラヴィンスキーの秘曲に挑む文:林 昌英第700回 特別記念東京定期演奏会5/18(金)19:00、5/19(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/ 1957年4月の第1回以来、60年以上の歴史を積み重ねて、2018年5月に第700回東京定期演奏会を迎える日本フィルハーモニー交響楽団。この大きな節目の公演で指揮を執るのは、日本フィルと数多の凄絶な名演を繰り広げてきた、桂冠指揮者兼芸術顧問のアレクサンドル・ラザレフ。 記念公演のメインに選ばれた作品はストラヴィンスキー「ペルセフォーヌ」。ギリシャ神話をもとにした物語がフランス語で語られる50分ほどの大作で、オーケストラ、合唱、児童合唱、テノール独唱とナレーションという特殊な編成のためか、上演機会は希少を極め、今回が日本初演となる。ラザレフは本作への思い入れが深く、「本当にいい曲。『春の祭典』よりも『ペルセフォーヌ』をやりたい」と意気込む。ストーリー上の主役であるフランス語のナレーションは、仏・独・日本語が堪能、舞台でも活躍中のドルニオク綾乃、テノールは経験豊かな名歌手ポール・グローヴス、そして晋友会合唱団、東京少年少女合唱隊と理想的な顔ぶれがそろった。この知られざる大作を高水準な演奏で体験できる、またとない好機だ。 もうひとつ注目したいのは、前半のプロコフィエフ「交響的協奏曲」。凄まじいテクニックと体力が要求されるチェロ協奏曲で、独奏を務めるのは日本フィルのソロ・チェロ奏者、辻本玲。名ソリストとしても活躍を続けている辻本の力強い表現と超絶技巧に期待が高まるし、オーケストラも重要な本作で“猛将”ラザレフの熱いプロコフィエフが聴けるのも大いに楽しみだ。ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団2大シンフォニストの“白鳥の歌”を並べて文:江藤光紀第659回 定期演奏会 4/14(土)18:00 サントリーホール川崎定期演奏会 第65回 4/15(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール問 TOKYO SYMPHONYチケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp/ マーラー、ブルックナーという“オーケストラ芸術の本丸”というべきレパートリーで、ノットは東京交響楽団と金字塔を次々と打ち立ててきた。緊張感あふれるリードで協調性や緻密さといった日本人の特性を引き出しつつも、ノットはそこにサウンドの輝かしさやパワーを加えてみせた。とりわけ一昨年7月のブルックナー8番は鮮烈な体験として胸に残っている。主張や個性をぶつけ合う欧米の楽団も顔負けの表現力があり、巨大な伽藍のように打ち立てられた剛毅なサウンドからは、楽団のイメージを一新してしまうほどのインパクトを受けた。 さて、そんな両者がいよいよこの4月定期で、マーラーとブルックナーの辞世の句ともいうべき二つの未完交響曲を並べる。マーラーは交響曲第10番第1楽章をほぼ完成させたところで亡くなった。曲は暗いトンネルの中をさまようように始まり、激しい不協和音が自我の崩壊を告げるが、その衝撃は安らぎへと回収されていく。ブルックナーは最後の交響曲を「愛する神に」捧げながら、フィナーレを作曲中に世を去った。結果的に最終楽章になったアダージョでは、魂が浄化され天界へと安らかに運ばれていく。 いずれもこの世ならぬ美しさをもった白鳥の歌だが、晩年の深い省察を湛えているだけに、両者を並べるという試みはあまりみない。そうした選曲の妙を味わいつつ、ノット&東響が明晰さや力強さ、型破りなスケール感を武器に、彼らの世界観にどう肉薄していくかに注目だ。新しい交響楽の可能性が見えてくるかもしれない。ジョナサン・ノット ©大窪道治左よりアレクサンドル・ラザレフ ©堀田力丸/ドルニオク綾乃/ポール・グローヴス/辻本 玲 ©竹原伸治

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