eぶらあぼ 2018.4月号
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56 ©Christian Steiner第7回 野島 稔・よこすかピアノコンクール第1次予選 4/29(日・祝)~5/1(火) 第2次予選 5/2(水)、5/3(木・祝)本選・表彰式 5/5(土・祝) 会場:よこすか芸術劇場問 横須賀芸術文化財団(よこすかピアノコンクール事務局)046-828-1603http://www.yokosuka-arts.or.jp/野島 稔(ピアノ)横須賀へコンクールを聴きに来ませんか取材・文:萩谷由喜子Interview 4月29日から1週間にわたり、よこすか芸術劇場を会場として第7回「野島 稔・よこすかピアノコンクール」が開催される。2006年から2年周期で継続されてきたこのコンクールは、多くの逸材を世に送ってきた。今回の審査は、野島稔(審査委員長)、東誠三、上野真、梅津時比古、野平一郎という顔ぶれで行われる。現役ピアニスト中心の構成だ。 開催を間近にして、野島稔に話をきいた。 「課題曲の出し方としては、第2次予選でベートーヴェンのソナタのうち、指定の15曲から任意のものを全楽章弾く、というところが最大の特色でしょう。時間的な制約から緩徐楽章をカットすることも他ではよくありますが、ベートーヴェン自身が『フィナーレではモーツァルトに敵わない、自分が勝負するのは緩徐楽章』だと言っているので、全楽章を弾く意味はとても大きいのです。選択範囲の15曲は初期、中期、後期すべてにわたっていますが、どれも難しい。決して初期がやさしいということはありません。むしろ、初期にはベートーヴェンの才気と書法との間に隔たりがあって、その隔たりを演奏者が埋めなければならない分、難しいですね。中期から後期は書法が円熟していきますから、弾きやすいともいえます。1曲1曲、すべて世界が異なるので、それぞれのコンテスタントが今、どういう勉強をしているか、それでどれを選ぶかということが問われるわけです」 選択範囲には、後期の4曲も含まれているが、どれを選ぶコンテスタントが多かったのだろうか。 「後期が多いですね。中期では『熱情』『ワルトシュタイン』かな。いずれにせよ、全楽章弾いてもらうので、その奏者のすべてをみることができます。彼らがどんなアーティストに育つ可能性があるか、というところをみます」 たしかに、人前でベートーヴェンのソナタを1曲丸ごと弾くことは、すべてが曝け出される恐ろしい体験だ。それも1806席の大きな会場で弾く。コンクールは予選から全日程無料公開されているので、1日中聴き入る熱心なピアノ・ファンも多い。 「最初の頃は、本選以外は小さな会場での実施でしたが、今は全審査、すべて大きな会場です。やはり、よこすか芸術劇場は空間が広くて響きが豊かですから、それを体験するだけでも意義があります」 本選は35~40分の任意のプログラムだ。 「みなさん、自分の得意なものを弾くわけですけれど、現代曲や日本人作品を弾く人はほとんどいませんね。大曲を核に何曲か組み合わせる、そのプログラミングも評価します。功成り名遂げた演奏家を聴くのもよいでしょうが、これからの人が、一発勝負で弾くドラマといいますか、それはとても迫力がありますよ。ぜひ、聴きにいらしてください」住友郁ふみはる治 ピアノリサイタル「巡礼の年 第2年」全曲に真っ向勝負文:笹田和人 この音楽家は、クラシックという枠組みなど、軽々と飛び越えていってしまう。しなやかな活動が光る、ピアニストの住友郁治。今回のリサイタルでは、“ピアノの魔術師”ことフランツ・リストが40年以上にわたって書き綴った独奏曲集「巡礼の年」から第2年「イタリア」全7曲に、じっくりと向き合う。 国立音楽大学・同大学院を首席で終え、1992年の第5回国際リストコンクールをはじめ、国内外のコンクールで入賞、チェコで開かれた第2回ヤングプラハ国際音楽祭では、日本代表ピアニス5/6(日)14:30 東京文化会館(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677http://www.proarte.co.jp/トに。ソリストや声楽の名伴奏者としても活躍の一方、演劇や映画の劇伴音楽を手掛けるなど、多才のアーティストとしても知られる。 「巡礼の年」の第2年「イタリア」は、出版こそ後年となったが、まだ20代だったリストが作曲。南国への旅を通じて刺激された、若き天才の瑞々しい感性を反映すると共に、終曲「ダンテを読んで」など、深い精神性や宗教観も湛える。そんな作品の多様性が、住友の高い音楽性と深い洞察力により、浮き彫りとなることだろう。
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