eぶらあぼ 2018.4月号
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50イラン・ヴォルコフ(指揮) 読売日本交響楽団米ソの“時代の不安”を描くディープなプログラム文:江藤光紀第578回 定期演奏会5/30(水)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jp/ 読響の5月定期にはイスラエル出身のイラン・ヴォルコフが登場する。史上最年少でBBCスコティッシュ響の首席指揮者を務めた後、アイスランド響の音楽監督などを歴任した鬼才だが、すでに東京のオーケストラにもたびたび呼ばれ、現代音楽をはじめとするプログラムで明晰なサウンドを築いている。今回はプログラムもひねりがきいていて面白そうだ。 まず注目したいのは生誕100年を迎えるバーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」。第二次大戦下のニューヨークに暮らす4人の男女を描いたオーデンの長編詩をテーマに、バーンスタインは2部6楽章のシンフォニーを作曲した。重厚なテクスチュアに加え、独奏ピアノが導き役として楽曲をリードしていくのも魅力だが、今回は独奏に河村尚子が起用されているのも注目点だ。ロマン派を多く手がけてきた印象のある河村だが、オーケストラとの駆け引きに加え、多彩なヴァリエーション、ジャズや軽音楽風の軽やかさなど、この曲の多彩な聴かせどころでどんな境地を見せるだろう。 最初に演奏されるプロコフィエフ「アメリカ序曲」は1926年に作曲された珍曲だが、カラッとした楽想で分かりやすい。1937年に発表されたショスタコーヴィチの交響曲第5番は、4楽章の古典的な楽曲構成、暗闇から歓喜へというドラマ性が人気だが、ソヴィエト共産党による前衛批判への回答として発表されたことでも知られている。第二次世界大戦をはさんで、やがて冷戦へと発展していくアメリカとソ連。二大大国の“時代の不安”を象徴的に描き出すプログラムといえるだろう。河村尚子 ©Hirofumi Isakaベルリンフィル 12人のチェリストたち15回目の来日公演は“12人”の集大成文:オヤマダアツシ7/8(日)14:00 18:00 サントリーホール問 ノア・チケット03-3417-7000 http://www.nikkei-events.jp/ もうどのくらい日本でコンサートを行い、どれだけの曲を私たちに聴かせてくれ、私たちを楽しませてくれたことだろうか。それでもなおアグレッシヴにレパートリーを開拓し、躍動感にあふれた演奏を聴かせてくれるのが「ベルリンフィル 12人のチェリストたち」だ。15回目の来日となる今回、サントリーホールで行われる公演は昼夜の2回。しかもプログラムが異なるため、1日で二度おいしいスペシャル公演になる。 まず昼の公演は、活動初期に彼らのシンボル曲となったクレンゲル作曲の「讃歌」からスタート。ヴィラ=ロボスがチェロ・アンサンブルのために書いた「ブラジル風バッハ第1番」(この中から昼公演と夜公演で違った曲をセレクト)、このグループのために作られたカイザー=リンデマンの「ボサ・ノヴァ」、三枝成彰の編曲による日本民謡やビートルズ・ナンバー、そしてアストル・ピアソラの曲などが披露される。 夜の公演は、美しく独特な味わいをもつプーランクの曲にはじまり、映画『タイタニック』のテーマ曲やジャズのスタンダード・ナンバーを聴かせた後、フォーレやシューマン、ショパンなどの曲へ。言うまでもなくすべてが手の内に入った作品であるため、同じチェロという楽器の集合体であるのに、オーケストラを聴くがごとき色彩を楽しめるはず。圧倒されたり、思わず笑顔になったりすることだろう。 来日公演は毎回完売となるため、心してチケット入手を。Photo:UWE ARENSイラン・ヴォルコフ ©James Mollison

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