eぶらあぼ 2018.4月号
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31メジャーな曲ほど、弾く上でスリルと責任を感じます取材・文:高坂はる香 写真:武藤 章 ハンガリーと日本の血を引く、ピアニストの金子三勇士。最近の彼は、通常のコンサートのステージに立つだけでなく、アウトリーチやラジオのパーソナリティなど活動を多彩に広げ、多忙な日々を送っている。 「常に新しい場所で人に会い、何かを発信したり、感じたりすること、美味しいものを食べることが、エネルギーの源になっています。動けば動くほど、パワーがチャージされていく感じです」 エネルギーみなぎる演奏スタイルに違わず、ライフスタイルもパワフルだ。 さまざまな活動の中でも、全国各地で行ってきたアウトリーチの経験は、金子にピアニストとして、聴く人を楽しませるにはどうしたらよいかを考えるきっかけを与えてくれたという。今回のアフタヌーン・コンサートでも、平日昼の公演ということを充分意識して、堅苦しくなく、同時に自身にとっても、挑戦の要素がある内容を考えた。 「大曲よりは、有名な小品を中心に選びました。そんな中でまず決めたのは、プログラム後半を、僕が心から尊敬するハンガリー出身の作曲家、リストの作品で固めるということ。リストというと超絶技巧のイメージがついてまわりますが、今回はロマンティックで時にメランコリックな彼の一面を紹介します。このコンサートを聴いて、もっとリストを聴いてみたくなったと言ってくださる方が1人でもいたら、僕は幸せです…。もちろん10人いたらもっと嬉しいですけれど(笑)」 とにかく“リスト愛”にあふれている。一方で前半は、「リスト自身が幅広い音楽を演奏しなさいと言っていた人」だということに準じて、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパンを取り上げる。いずれも後半につながる選曲でもある。 「例えばベートーヴェンの『エリーゼのために』では、リストの視点で見たこの作品を表現するつもりです。普段皆さんが耳にするものとは、少し違った音楽をお届けできるのではないかなと思います」 今回は他にも「ラ・カンパネラ」など、広く愛される作品が多く取り上げられる。金子は最近、こうした有名曲を演奏することにおもしろさを感じているそう。 「今までは、あまり取り上げられない曲を積極的に弾いてきましたが、この頃、メジャーな曲ほど、弾く上でスリルと責任があると気が付きました。他の奏者と違う表現をするなら、そこに説得力があることが重要になります。それには、あらゆる方向から作品を見直して解釈を創らなくてはいけません。どれだけ作曲家の意図と真剣に向き合ったかが、表現の説得力を左右します」 そのため、最近他のピアニストの録音を聴くことが減ってきたという。 「ひたすらオリジナルの楽譜と向き合う時間が長くなっています。リストの作品の場合などは、彼ゆかりの地に行くことで、意外なところからヒントを得ることもあります。『ラ・カンパネラ』では、高音の表現など、いろいろ工夫した演奏になると思うので、楽しみにしていただければ!」 工夫といえば、プログラムの最初に置かれている金子自作の「イントロダクション」の存在も気になる。これも、今回の公演に仕掛けられた工夫の一つだそう。 「これまでプログラムを決める上で、開演前から高まる皆さんの期待感に応え、さらに会場全体の空気をまとめられるような、はじまりにピッタリの曲がないことがずっと悩みだったんです。そこで、この際1曲作ってみようかと。日頃から大作曲家による作品に触れていますから、自分で作曲をすることはないと思っていたのですが」 作品は、日本とハンガリーのテイストを少しずつ取り込んだ、いわば“音楽による自己紹介”のような曲だという。 「今後も公演の趣旨や季節に合わせていくつか作ってみてもいいなと考えているんです」 演奏家として表現の高みを目指しつつ、来場者の期待に応えようというサービス精神もたっぷり。今回の公演でも「最後の最後までお楽しみを用意している」そう。内容は秘密ということだったので、何が起きるのか、午後のひととき、ぜひ会場に足を運んでお確かめください!Informationアフタヌーン・コンサート・シリーズ 2018-19前期金子三勇士 ピアノ・リサイタル ラ・カンパネラ4/13(金)13:30 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ 03-5774-3040http://www.japanarts.co.jp/
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