eぶらあぼ 2018.4月号
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192 前回、世界初の「コンテンポラリー・クラシック・ステーション」として1992年にスタートしたイギリスのClassic FMの大胆なスタイルについてお伝えし、OTTAVAがこれを手本に開局したことをご紹介させていただきましたが、2007年の開局を前にして、Classic FMの方から教わったさまざまな“スキル”の中で個人的に一番驚かされたのが、「クライテリアによる選曲」でした。 もし貴方が今、ラジオ局のパーソナリティになって番組の選曲を担当することになったら、どう考えて楽曲を決めていくでしょう? 「とにかく不滅の名曲、名演で固めよう」「有名な曲と無名な曲をバランス良く並べよう」「バッハから始めよう」…。選曲の方法は、それこそ星の数ほど考えられますよね? この「どのような方針で曲を決めていくか?」が、クライテリア(Criteria)、日本語にすると「基準」というものです。物事に基準があるのは当たり前! と言われそうですが、驚かされたのはここから先です。 ①有名、無名で楽曲は区別しない。②特定の作曲家、時代、様式に固執しない。③一つの楽曲に原則、流す演奏は一つとし、演奏の違いによる選曲はしない。ここまでが禁止事項。次に、④流すべき楽曲の特徴をポジティヴなコトバで表現する。この場合のコトバとは、例えば「幸せな」「リラックスできる」「懐かしい」「元気になる」「空気がきれいになった気がする」…こうして選ばれたコトバが「クライテリア」です。そして、⑤そのコトバで表現できる楽曲(クライテリアに合致した曲)を1曲でも多く探してたくさん流す。というものでした。厳密に言うと、実際はもう少し複雑で、お伝えできない若干の企業秘密もあり、これがすべてではないのですが…。斎藤 茂 Profile北海道札幌市出身。音楽番組のプロデューサーとして東京のFM放送局勤務後、独立。現在は番組、音楽、コンサートなどの制作に携わる。2007年開局と同時にOTTAVAのミュージック・ディレクター、2014年ゼネラルマネージャに就任。 とにかくこんな発想で選曲などしたことがなかったので最初は大変でした。バッハとヘンデルとヴィヴァルディは較べられても、ジョスカン・デ・プレとシューベルトとメシアンに「共通している」コトバを見つける作業は、まさに『迷い道くねくね』。この基準で選曲をしていくと、誰もが知る有名曲の一部が、全く流れない一方で、CDやコンサートではまず聴くことの出来ないレアなクラシック作品が、OTTAVAから頻繁に紹介されることになり、ありがたくも「あの曲は何?」という問い合わせが増えていくようになりました。 その代表が、イギリスの作曲家、ジェラルド・フィンジ(1901-56)の「ピアノと弦楽のためのエクローグ op.10」。フィンジは都会生活を嫌い田園地帯に住み、イギリスでは園芸家としても名を残した作曲家です。クラリネットやチェロのための協奏曲や、歌曲がごくまれに演奏されることがありますが、1929年に作曲されたこの「エクローグ」(田園詩の意)は、ピアノと弦楽合奏という編成、10分ほどしかないこと、あまりドラマティックな展開がないこともあって、演奏会で取り上げられることはまず期待できない作品だと思います。 でも、お聴きになってみてください。一度聴いたら忘れられない、もう一回聴きたくなる、しばらく聴かないと少し不安になる…まるであっさりとした、でもスパイスとハーブが絶妙に使われたパスタのような曲だと思います。 そう、クライテリアとは、レシピのようなものなのです。文:斎藤 茂(OTTAVA)「エクローグ」クライテリアが生んだ「知られざる佳曲」Vol.2◎OTTAVAとは2007年に開局した24時間無料でクラシック音楽が楽しめる国内唯一のインターネット・ラジオ局。リスナーは全世界で100万人以上。パソコンやスマートフォン、タブレットで、いつでもどこでもクラシック音楽が聴ける。OTTAVA検索コンテンポラリー・クラシック・ステーションへようこそ!オッターヴァ無料でインターネットで聴ける!連載

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