eぶらあぼ 2018.4月号
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178CDCDCDCDベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番、大フーガ/エルデーディ弦楽四重奏団八月の響層/藤井宏樹 & Ensemble PVDこの地球を神と崇める/大井剛史 & 東京佼成ウインドオーケストラブラームス:晩年のピアノ小品選集/山本裕子ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第13番、大フーガエルデーディ弦楽四重奏団【蒲生克郷、花崎淳生(以上ヴァイオリン) 桐山建志(ヴィオラ) 花崎 薫(チェロ)】パレストリーナ:バビロンの河のほとりで/モンテヴェルディ:マドリガーレ集第3巻より/アイスラー:戦争反対/林 光:原爆小景/プーランク:人間の顔/カタルーニャ民謡(寺嶋陸也編):鳥の歌藤井宏樹(指揮)Ensemble PVD(合唱)ヘンデル:歌劇《リナルド》から〈私を泣かせて下さい〉/ネルソン:モーニング・アレルヤ~冬至のための/R.シュトラウス:メタモルフォーゼン/藤田玄播:吹奏楽のための天使ミカエルの嘆き/フサ:この地球を神と崇める大井剛史(指揮)東京佼成ウインドオーケストラブラームス:3つの間奏曲op.117、6つのピアノ小品op.118、7つの幻想曲op.116山本裕子(ピアノ)コジマ録音ALCD-1171 ¥2800+税収録:2017年8月、府中の森芸術劇場(ライヴ)日本アコースティックレコーズNARC-2143/4(2枚組) ¥3000+税収録:2017年9月、東京芸術劇場(ライヴ)ポニーキャニオンPCCL-50017 ¥2500+税ナミ・レコードWWCC-7862 ¥2500+税来年結成30周年を迎えるベテラン、エルデーディSQによる後期ベートーヴェンの録音がスタートした。第1弾は第13番とその本来の終楽章でのちに独立した「大フーガ」。第1楽章は明るく太い音色で屈託なく進む。音楽は躍動し、旋律は輝かしい。第2楽章以降もアプローチは一貫していて、プレスト楽章ではイン・テンポで第1ヴァイオリンが名人芸をみせ、スケルツォやドイツ舞曲も薄化粧でさっぱりと聴かせる。ヴィブラートの有無で遠近を作るカヴァティーナも面白い。「大フーガ」は彼らならではの線の太さで複雑なテクスチュアを曇りなく表現しており、曲の巨大性を改めて実感させられた。(江藤光紀)このアルバムは、“人間の声”による、音楽と言葉が持つ“力”の大きさを知らしめる。Ensemble PVDは、国際的に活躍する合唱指揮者、藤井宏樹のもとで結成された混声合唱団。「響層」という言葉を冠した録音シリーズの第3弾は、林光「原爆小景」を軸に、戦争を背景とした作品を集めた。ルネサンスから現代まで、時代を超えて、各国語で綴られた言葉によって炙り出される、悲しみや虚しさ。彼らは決して力みすぎることなく、しかし、静かな怒りと情熱を込めて、魂の叫びを歌へと変えてゆく。特筆すべきは、ユニゾンの美しさ。音楽と言葉こそ、戦争という愚行に抗う、最強の武器なのかもしれない。(笹田和人)正指揮者・大井剛史による佼成ウインドの昨年9月定期をフルに収録したライヴ録音。「戦争や環境問題に関係する曲目」(大井)というシリアスな内容に即した、渾身の演奏が展開されている。開始2曲からピュアな美しさが横溢。「メタモルフォーゼン」は、23の弦楽器のための作品を41の管楽器と1本のコントラバスに移した果敢な挑戦だが、彼らのみ成し得るハイクオリティな演奏で、吹奏楽の新たな可能性が提示されている。最後の「この地球を神と崇める」は、凄絶な名作の壮絶な名演。音楽性のみをひたすら究めた“聴く吹奏楽”の真髄というべきアルバムだ。 (柴田克彦)前作のバッハによる鍵盤楽器のためのトッカータ集から10年ぶりに山本裕子がリリースしたのは、ブラームスの晩年のピアノ小品選集。1892〜93年に作曲された「op.117」の間奏曲、「op.118」の小品、「op.116」の幻想曲だ。世紀末にあって自らの人生の終焉を意識していたブラームスの、穏やかにして重く深い音楽を、山本は全体に最低音の鳴り響きを豊かに押し出しながら、安定したトーンを崩さずに描き切る。諦念の先にあるものは仄暗い悲しみか、あるいは木漏れ日のような穏やかさか。そんな問いかけを胸に、じっくりと聴き入りたい一枚。 (飯田有抄)
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