eぶらあぼ 2018.3月号
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93 ロッシーニに限らず、東京春祭では特定の作曲家にフォーカスしてその魅力を継続的・多面的に紹介する企画がすでに複数走っている。3月19日には「ベンジャミン・ブリテンの世界〜20世紀英国を生きた、才知溢れる作曲家の肖像」(企画構成:加藤昌則、全5回)の第2回が催される(上野学園石橋メモリアルホール)。近代的なセンスと透明感あふれるテクスチュアが魅力の弦楽四重奏曲第2番。第二次世界大戦時のイギリスへの夜間空襲を描いた「カンティクル第3番『なお雨が降る』」、テニスン、キーツ、ブレイクといったイギリスの詩人に付曲した「セレナード」では、独唱に加えホルンが活躍するのも聴きどころ。テノールにはブリテンをライフワークとし二期会でも活躍する鈴木准が、ホルンにはN響首席の福川伸陽が登場する。 「東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.5」(3/21 上野学園石橋メモリアルホール)では「ルーマニアン・ラプソディ」というテーマで、作曲だけでなくヴァイオリンに、ピアノにとマルチに活躍したジョルジェ・エネスクをフィーチャーする。ジプシー・ヴァイオリンの気分を漂わせながら熱狂へと高まる「ルーマニア狂詩曲第1番」は、彼のもっとも知られた作品。ヴァイオリンの小林美恵はこの日演奏される「ヴァイオリン・ソナタ第3番」を録音もしており、最適の人選だ(ピアノ:寺嶋陸也)。未だ知られざる作曲家の横顔を解説してくれるのは、東欧民族音楽の権威・伊東信宏。 「東京春祭のStravinsky vol.6」(4/7 東京藝術大学奏楽堂)では、バレエ・リュス時代の大傑作「ペトルーシュカ」、「春の祭典」がピアノ4手版でいよいよお目見えする。グロテスクな人形劇や異教の残酷な踊りは、ピアノへと凝縮されることでその 歴史的な美術館や博物館で催されるコンサートは東京春祭ならではのユニークな企画。出演者もベテランから伸び盛りまで多彩だ。フェスティバル期間には「ブリューゲル展」(東京都美術館)、「プラド美術館展」(国立西洋美術館)と話題の展覧会も重なるが、展覧会会場での多彩なコンサートとあわせて鑑賞すれば、理解と感興が深まることは必定。ほかにも恒例の「東博でバッハ」シリーズでは野平一郎がバッハ作品に加え自作の新曲を披露(3/17 東京国立博物館)、国立科学博物館ではフルート界のライジング・スター上野星矢が、ギター伴奏(松本大樹)とともにファリャやピアソラなどラテン系プロを取り上げる(3/22)。 国立科学博物館の展示物を背景に行われる〈ナイトミュージアム〉コンサート(3/15)は東京春祭のプレ・イベントという位置づけだが、箏やクラリネット、グラスハープなど多彩な楽器による演奏の間に、植物の研究者・岩科司と天文の研究者・西城恵一によるスペシャル・トークが挟まれる。夜の博物館で繰り広げられる美と知の饗宴に浸るひととき。 21時30分からスタートする「東京春祭NIGHT」(4/6 東京キネマ倶楽部)は「Cabaret(キャバレー)を巡る物語」と題し、ソプラノの中嶋彰子らが黄金の1920年代のキャバレーの世界を再現する。会場はグランドキャバレーとして使われたスペースを大正時代の雰囲気に再現した東京キネマ倶楽部。夜のとばりにまぎれ、時空を超えたタイムスリップを愉しもうという趣向だ。ミュージアム、そしてキャバレー……特別な場所で聴くコンサート東京春祭ならではの個性的なシリーズ音楽エッセンスを露わにする。高橋礼恵とビョルン・レーマンはともにベルリン在住。彼らが録音した「春の祭典」も、呪術的なメロディがメカニックで力強いパルスに変貌する様を克明にとらえているが、今回はそのスリリングな演奏を生で味わってほしい。鈴木 准昨年の〈ナイトミュージアム〉コンサートより 昨年のミュージアム・コンサートより東京キネマ倶楽部写真3点 ©東京・春・音楽祭実行委員会/飯田耕治福川伸陽 ©大津智之小林美恵 ©武藤 章高橋礼恵&ビョルン・レーマン ©Uwe Arens

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