eぶらあぼ 2018.3月号
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92 旬のアーティストでオペラや合唱など歌ものを楽しめるのは東京・春・音楽祭の大きな魅力の一つ。今年は没後150年を迎えるロッシーニにスポットを当てている。《セヴィリアの理髪師》以外の作品も次第に取り上げられるようにはなっているが、これだけまとまって演奏される機会は珍しいし、創作の全体像や同時代への影響を押さえてあるのもうれしい。 「スプリング・ガラ・コンサート」(3/28 東京文化会館大ホール)では、ロッシーニをはじめとするイタリア・オペラの名曲で春をことほぐ。今年、精鋭からなる東京春祭特別オーケストラを指揮するのはレナート・バルサドンナ。長らく合唱指揮者としてロイヤル・オペラをはじめとする名門歌劇場を支えてきたが、近年はオーケストラやオペラなどの指揮者としても急速に名声を高めている。2015年東京春祭のベルリオーズ「レクイエム」では合唱指揮者として参画したが、今年は熟練の音楽づくりを指揮台からダイレクトに披露してくれる。演奏者の解釈にゆだねられる余地の大きいイタリア・オペラだからこそ、ツボを押さえて魅力を存分に引き出してくれるだろう。 フェスティバルのクロージングにあたる4月15日には、モーツァルト「交響曲第25番」のあと、宗教音楽の傑作「スターバト・マーテル(悲しみの聖母)」が取り上げられる(東京文化会館大ホール)。人生の半ばで早々に筆を折り、年金生活者として美食三昧の生活を送っていたロッシーニだが、隠退生活の中で書かれたこの曲は、軽快なオペラ・ブッファの作曲家というイメージとは裏腹に、深い宗教的情感が表れている。昨年のガラ・コンサートを躍動感あふれるリードで沸かせたイタリアの若手女流指揮者スペランツァ・スカップッチが、ドラマティックな大作をどう料理没後150年を迎えるロッシーニに光を当てるスペランツァ・スカップッチ今年で14回目を迎える「東京・春・音楽祭」が、春の訪れとともに上野エリアで開催される。今回もバラエティに富んだ公演がたくさんあり、目移りばかりしてしまうかもしれない。この特集では、決して聴き逃すことができない注目公演ばかりをナビゲート。ぜひ音楽祭を愉しむガイドとしてご活用ください。文:江藤光紀開幕まであと少し! 東京・春・音楽祭—東京のオペラの森2018—するかが見もの。エヴァ・メイ(ソプラノ)をはじめ歌唱陣も豪華だ。 「ロッシーニとその時代」(3/25 東京文化会館小ホール)では「混乱の世を生き抜く知恵と音楽」と題して、ロッシーニと同時代の作曲家の音楽を5部にわたり多彩な切り口からプログラミングしたマラソン・コンサートが行われる(企画構成・お話:小宮正安)。興行師と出会いオペラ作曲家として大成、パリに旋風を巻き起こす過程をたどるとともに、《ウィリアム・テル》競作聴き比べ、隠退生活にうかがうその世界観など、時代に切り込むテーマ設定には興味が尽きない。実演ではなかなかお目にかかれない珍曲が並んでいるのもポイントだ。エヴァ・メイレナート・バルサドンナ
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