eぶらあぼ 2018.3月号
59/211

56川瀬賢太郎(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団大胆にして意義深いメモリアル・プログラム文:柴田克彦第338回 定期演奏会 4/7(土)14:00 横浜みなとみらいホール問 神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107 http://www.kanaphil.or.jp/ 川瀬賢太郎が神奈川フィルの常任指揮者として5年目のシーズンを迎える。2014年に29歳で就任した彼の契約延長(17年から3年)は好調な関係の証し。実際当コンビは、川瀬の持ち味を反映した情熱的かつ躍動的な演奏を続けているだけに、今後も目が離せない。 さて新シーズンは、生誕100周年を記念したバーンスタインの特集で始まる。しかも、旧ソ連を出たロストロポーヴィチのワシントン・ナショナル響音楽監督就任を祝って作曲され、曲中に政治的な演説と歓呼の声が流される「スラヴァ!(政治的序曲)」、出身民族が異なる米国人不良グループの対立下の愛と犠牲を描いた『ウエスト・サイド・ストーリー』より「シンフォニック・ダンス」、道徳を失った国と民衆に信仰の回復を説きながらも絶望に陥る古代ユダヤの預言者エレミアの悲哀を表現した交響曲第1番「エレミア」という創意に充ちたプログラム。川瀬が「3曲はどれも『今』演奏することに意味があります」と述べる通りの内容だ。とはいえ音楽自体は、構えずに楽しめる明快なものばかり。「スラヴァ!」は『ウエスト・サイド』の「クラプキ巡査への悪口」を彷彿させる快活な佳品、「シンフォニック・ダンス」は名旋律とリズムが踊るおなじみの名曲だし、「エレミア」も“重くないショスタコーヴィチ”といった趣で非常に聴きやすい。「エレミア」の独唱は関西二期会の福原寿美枝。彼女は14年に川瀬が同曲を名古屋フィルで演奏した際にも豊潤な歌声を披露している。 これは、「エレミア」の貴重な生体験を含めて、記念イヤーの中でも注目すべき公演だ。福原寿美枝大野和士(指揮) 東京都交響楽団新シーズンはマーラーの大シンフォニーで開幕文:江藤光紀第852回 定期演奏会 Aシリーズ 4/9(月)19:00 東京文化会館第853回 定期演奏会 Bシリーズ 4/10(火)19:00 サントリーホール問 都響ガイド0570-056-057 http://www.tmso.or.jp/ 大野和士の都響音楽監督もこの春をもって3期目に入るが、新シーズンの幕開けにマーラーの交響曲第3番をぶつけてきたあたりに、手応えが確かなものへと成長しているのを感じる。なんといってもこれは4管編成の巨大管弦楽にアルト独唱、女声・児童合唱が加わり、2部6楽章構成、100分近くを要する“メガ交響曲”なのだ。当初作曲家が考えていたのは、牧神の目覚めと活力に満ちた夏の到来、花々や動物といった自然界との交歓、夜の瞑想、天使との交流を経て、愛の認識へ至るという気宇壮大な物語だった。一口でいうなら、マーラーはここで交響曲という器に世界の森羅万象を盛ったのである。 大野&都響は2016年11月には交響曲第4番を演奏、さらに来年1月には「子供の不思議な角笛」を取り上げる。第3番・第4番は「角笛交響曲」と呼ばれるほどこの歌曲集と密接につながっているから、これは足掛け4年にわたって構想されたプログラミングの中間章なのだ。海外の歌劇場を長年にわたり率いてきた大野は、歌とドラマの生理を知り尽くしている。2年を経て充実期に移行しつつある両コンビに、これから訪れるであろう“暑い夏”を予感させるオープニングになるのではないか。 アルト独唱はフィンランドのベテランで、マーラーの解釈ではとりわけ国際的に評価の高いリリ・パーシキヴィ。このところ在京オケの定期公演などにも頻繁に招かれており、また大野ともすでにヨーロッパの歌劇場で共演、信頼関係を築いている。合唱には鉄壁のアンサンブルを誇る新国立劇場合唱団、児童合唱には70年近い伝統を持つ東京少年少女合唱隊が参加。万全の布陣だ。左より:大野和士 ©Rikimaru Hotta/リリ・パーシキヴィ ©Rami Lappalainen and Unelmastudio Oy Ltd.川瀬賢太郎 ©Yoshinori Kurosawa

元のページ  ../index.html#59

このブックを見る