eぶらあぼ 2018.3月号
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52ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団若き名匠が放つワーグナーの名管弦楽曲集文:江藤光紀第699回 東京定期演奏会4/27(金)19:00、4/28(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/ ラザレフからバトンを託された首席指揮者インキネンが、日本フィルをさらなる躍進に導いている。アンサンブルをまとめ、しっとりと溶け合いよく流れる、それでいて力強い音楽が聴かれるようになってきた。両者がどんな方向に向かうのかますます楽しみだ。 4月27日、28日の定期はワーグナーを取り上げる。絶賛を浴びたオーストラリア・オペラでの《リング》全曲演奏にみられるように、インキネンにとってワーグナーはレパートリーの中核にある。日本フィルとも《ワルキューレ》第1幕(2013年9月)、就任披露演奏会での《ジークフリート》と《神々の黄昏》の抜粋(16年9月)と着実に共演経験を重ねており、とりわけ昨年5月の《ラインの黄金》では、演奏会形式でありながら簡易舞台を十全に活用、緊張感に満ちた演奏で聴衆をその神話的世界へと引きずり込んだ。 今回は管弦楽のみの直球勝負。まずは《タンホイザー》序曲。細かく顫動する弦をコントロールしながら厚みのある響きにどうつなげていくか。続いて天から降ってくる光のように神々しい第1幕、ダイナミックな第3幕と《ローエングリン》の2つの前奏曲を対比的に演奏する。そして作曲家としても活躍したマゼールが編曲した“言葉のない《指環》”。上演に4日間を要する《リング》のポイントを一時間余りに手際よくまとめ、醍醐味を伝えてくれる。 日本フィルは近年オペラに積極的に取り組んでいるが、音楽が劇と同時に進行するオペラ、とりわけドイツ音楽の核ともいうべきワーグナーで、彼らがどんな新しい表現の領野を切り開いていくのか、興味は尽きない。ピエタリ・インキネン ©堀田力丸東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ ベッリーニ:《ノルマ》(セミ・ステージ形式)選りすぐりの歌手陣でベッリーニの“音楽”に真っ向勝負!文:岸 純信(オペラ研究家)3/17(土)17:00、3/18(日)14:00 Bunkamuraオーチャードホール問 二期会チケットセンター03-3796-1831/Bunkamuraチケットセンター03-3477-9999http://www.nikikai.net/ ベッリーニの音楽は、歌手にとっての試金石。ひとたび楽譜を広げたならば、それはそれは難しいフレーズが次から次へとやってきて、息つくひまもないのだから。この作曲家は二つの基本理念を打ち出す。「音と音をどこまで肌理細やかに繋げるか」「どこまで長く息を保てるか」というもの。こうした地道な取り組みこそ実は一番難しい。あのマリア・カラスもベッリーニを好んだが、その背景には、「ベッリーニで成功できる自分」を誇るという一流のプロ意識が存在した。 それだけに、この3月、ベッリーニの最高傑作《ノルマ》を東京二期会が取り上げるというニュースが話題となっている。それはいわば、「選びに選び抜いたキャスティングです」といった決意の表れにほかならぬもの。今回は、映像を付したセミ・ステージ形式での上演だが、紀元前のガリアを舞台に、巫女ノルマが三角関係に翻弄されるといったクラシックな物語だからこそ、映像のシンボリックな効果も発揮できるのだろう。 指揮者はイタリアの俊英リッカルド・フリッツァ。きびきびとした棒捌きで人気のマエストロである。ノルマ役は二期会が誇るソプラノ、大村博美と大隅智佳子。太く豊かな声音の大村、毅然とした響きの大隅と、どちらも実力派である。武将ポリオーネ役では、新進テノールの城宏憲とスター樋口達哉が美声を競い、若い巫女アダルジーザ役は清々しいメゾの小泉詠子と富岡明子が競演。全力投球の熱演ぶりに期待したい。大隅智佳子城 宏憲樋口達哉 ©瀬木深一小泉詠子富岡明子大村博美
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