eぶらあぼ 2018.3月号
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425つの目標 大野は5つのポイントを目標に掲げる。1つ目はレパートリーの拡充。これまで年間3演目だった新制作を4演目に増やし、海外のプロダクションを紹介する際には、レンタルではなく買い取りとすることで、繰り返し再演可能なシステムに変える。2つ目は日本人作曲家委嘱作品シリーズの開始。大野監督の就任初年度から1年おきに行う。作曲家、台本作家、演出家、芸術監督の間での綿密な協議のもと、オペラの醍醐味である重唱を重視するなど、これまでのオペラの創作からさらに踏み込んだ新機軸を打ち出す。3つ目は、2つの1幕物オペラ(ダブルビル)と、バロック・オペラの新制作の1年おきの実施。前者は“一粒で二度おいしい”企画、後者は当劇場シーズン公演初の試みだ。4つ目は、旬の演出家、歌手をリアルタイムで届けること。優秀な日本人歌手の主役級への起用も含まれる。5つ目は他の劇場との積極的なコラボレーション。東京発の新制作ワールド・プレミエを積極的に世界に広めていく。世界の旬のオペラを日本の観客に紹介し、さらに世界に発信したいという大野の夢が結実したラインナップだ。監督初指揮は西村 朗の新作《紫しおん苑物語》 新制作4本の中でも注目は、大野が指揮する最初の演目にして、日本人作曲家委嘱作品シリーズの第1弾、《紫苑物語》だ。原作は石川淳。「平安時代。歌の道を捨てて弓に道を求め、人や狐を殺めた宗頼(“紫苑=忘れな草”は彼の足跡の象徴)が、狐の化身・千草との愛などを経て、桃源郷で自分と瓜二つの仏師・平太に出会い、仏に矢を放つとすべてが崩壊。不思議な『歌』だけが残る」といった物語で、“芸術家の生涯”を介して芸術や死の永遠性が語られる。この幻想的な世界を、現代日本を代表する作曲家・西村朗が、詩人・佐々木幹郎の台本で音楽化。演出には、俳優にして欧州でオペラ演出家として活躍、大野が「世界で最も有名な日本人演出家」と太鼓判を押す笈田ヨシを迎える。しかも西村と笈田は「かつてのR.シュトラウスとホフマンスタールのような熾烈なやりとりをしている」(大野)という。ピットには東京都交響楽団が入り、キール歌劇場専属のバリトン、髙田智宏をはじめ優れた歌手陣も集結。「万全の形」(大野)で臨むだけに必見だ。新国立劇場オペラ2018/19シーズン 新国立劇場2018/19シーズンのオペラ公演のラインナップが発表された。モネ劇場、リヨン歌劇場などのポストを歴任し、世界の歌劇場の最前線を知る大野和士の芸術監督就任で、同劇場が“世界の劇場の潮流”へとさらなる発展を遂げるであろう期待が高まる。会見での言葉を引用しつつ、新シーズンの注目点を紹介しよう。取材・文:柴田克彦左:大野和士 右:西村 朗 提供:新国立劇場 撮影:小林由恵笈田ヨシ大野和士新芸術監督が打ち出す新機軸
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