eぶらあぼ 2018.3月号
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210の作品を以て世界に立ち向かっていかなければならない。それは長く孤独な戦いだ。作品(A)の人は、だからこそ力の無い者に賞を出すと潰れてしまう、慎重であるべきだ、という。しかしオレは、戦う力などというものは、戦いながらでなければつくもんじゃないと思っているのだ。もしも賞にできることがあるとしたら、それは先回りしてアーティストを護ってあげることではなく、戦う姿のその背中を支えてやることくらいではないのか。 で、どうなったか? 結果的には両軍譲らず、両者受賞で落ち着いた。なるほど、賞なんて、どんどんあげちゃえばいいんだね。 ちなみに1月の北海道ダンスプロジェクトの「NEXT ONE」というコンペティションでオレがNEXT ONE賞に選んだ長谷川暢の作品は(オレは日本国内での審査員は辞退しているが、一人で決められるものは受けている)、冒頭から和太鼓を演奏し、ちょっと笑える展開のあるダンス作品。長谷川はダンサーとしては山田うんのカンパニーに属す一方、プロの和太鼓奏者としても仕事をしている変わり種だ。さらに韓国のフェスのディレクター、ユ・ホシクが招聘を決めた平雛子の作品は、歌舞伎などでも有名な早口言葉「外郎(ういろう)売り」を女性2人で朗々と詠唱しながら踊っていく作品。いずれも作品(A)を推す人には支持されないだろうが、それでいいのだ。第41回 「アーティストを、護るべからず」 10月にタイと秋田、11月にソウル、12月にイスラエル、1月に札幌、2月に福岡と、オレの関係しているフェスを巡る旅が一段落した。それぞれプミポン国王の一周忌だったり洪水で川が氾濫したり上空をミサイルが飛んだり、米大統領がエルサレムを首都認定して要らぬ緊張を高めたり、スープカレーが美味しかったり福岡行きはこの〆切の後だったりと、様々な事があった。 韓国のソウル国際振付フェスティバルではオレを含む10ヵ国ほどの国際審査員が、独自に選ぶ国際審査員賞を決めるのだが、ちょっとした悶着があった。 まずはバリバリ踊る男性カンパニーの作品(A)が推奨された。実は韓国ではここ10年ほど男性ダンサー育成に力を入れている。韓国はアクロバティックなストリートダンスではダントツで世界一だが、さらにバレエも身につけた「長身で小顔のイケメンがバリバリ踊って色気まである」というダンサーが大量に出てきているのだ。 たしかに作品(A)は圧巻の出来だった。しかし逆にいうと、それは韓国にとってはオーソドックスなスタイルだ。そこでオレは、作品(B)を推した。叫んだり走ったり激しくぶつかり合っているが、新しい表現に挑戦しており、しかも作品として成り立っている。すると半分ほどの審査員が「私もそう思ってた!」とビックリするくらいの勢いで同意してきたのである。 実は同様のことはこれまでにもあった。作品(A)を推す人は「賞には責任があるから、ちゃんとした技術と実力のある人を送り出さなければならない」という立場であり、作品(B)を推す人は「リスクを取りにいっているアーティストの挑戦こそ評価すべき」という立場だ。 オレは基本的に後者である。アーティストは自分Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお
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