eぶらあぼ 2018.2月号
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48マルクス・シュテンツ(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団ヘンツェの魅力を解き明かす文:江藤光紀第583回 定期演奏会 トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉2/2(金)19:00、2/3(土)14:00 すみだトリフォニーホール第584回 定期演奏会 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉2/8(木)19:00 サントリーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 http://www.njp.or.jp/ 2012年に86歳で亡くなったハンス・ヴェルナー・ヘンツェは、戦後ドイツ音楽をけん引した作曲家だった。前衛音楽が一世を風靡した時代にもいたずらに技法追求の競争には加わらず、一時は左翼思想に傾倒するなどユニークな立ち位置を貫いた。その創作はオペラから交響曲まで膨大な量に上り、スタイルは融通無碍で一言では語れないが、豊かなテクスチュアとヴァイタルなエネルギーは一貫している。 さて、2月に新日本フィルを振るマルクス・シュテンツは、若き日にヘンツェによって才能を見出され、その作品を数多く取り上げてきた、まさにヘンツェのスペシャリスト。現在はオランダ放送フィル首席指揮者やソウル市立響のレジデント・コンダクターを務め、実りの時期に差し掛かってきた指揮者である。 今回シュテンツは、ドイツ音楽の偉大な伝統にヘンツェを位置付ける2プログラムを、満を持して披露する。2月2日と3日は“交響曲の父”ハイドンの2つの交響曲、第22番「哲学者」、第94番「驚愕」から、1984年作曲の交響曲第7番につなぐ。ヘンツェは生涯にわたって10曲の交響曲を書いたが、第7番は管弦楽が広いパースペクティヴを描き出す冒頭楽章、緩徐楽章、スケルツォ風楽章、厚みのあるフィナーレと古典的なフォーマットがみられる。2月8日はワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第1幕前奏曲、ベートーヴェン「英雄」の間に、初期のオペラ《鹿の王》を素材に90年代に作曲された「ラ・セルヴァ・インカンタータ」が挟まれる。この作品は音のヴェールが神秘的な世界を開き、スピード感あふれるロンドへと続く。マルクス・シュテンツ Photo:Molina Visualsヘンリク・ナナシ(指揮) 読売日本交響楽団初来日の名匠がブゾーニの秘曲とシュトラウスで唸らせる文:柴辻純子第576回 定期演奏会3/16(金)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jp/ 好演を続ける読響と2012年から17年までベルリン・コーミッシェ・オーパーの音楽総監督を務めたヘンリク・ナナシが初共演を果たす。ハンガリー出身のナナシは、ブダペストとウィーンでピアノと作曲を学び、13年に英国ロイヤル・オペラにデビューするなど、オペラの指揮でも高い評価を得ている。 3月の定期演奏会は、20世紀初頭に活躍したフェルッチョ・ブゾーニのヴァイオリン協奏曲を含む、捻りの効いたプログラム。ブゾーニといえば、バッハの鍵盤作品などで、過剰な装飾を施した悪名高い(?)改変で知られるが、作曲家としては才能豊かで、オペラや劇音楽をはじめ、多数の作品を手がけた。1897年に書き上げたヴァイオリン協奏曲は、ベートーヴェンやブラームスと同じニ長調で、後期ロマン派の香り高い、20分超の単一楽章の協奏曲だ。ソリストにはフランスの名手ルノー・カプソンを迎える。2016年にリリースしたCD『21世紀のヴァイオリン協奏曲集』が話題を集めたように、同時代の音楽や知られざる名曲の発掘にも積極的に取り組むカプソン。甘美な音色と技巧がブゾーニの作品に新たな光を当てるだろう。 後半は、交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」。17年にサンフランシスコ・オペラで《エレクトラ》を振り、今年はロイヤル・オペラで《サロメ》を振るなど、R.シュトラウスを得意とするナナシが読響と、この壮大でドラマティックな音楽をどのように作り出すのか、こちらも楽しみである。ルノー・カプソン ©Mat Hennekヘンリク・ナナシ ©Gunnar Geller

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