eぶらあぼ 2018.2月号
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44エリアフ・インバル(指揮) 東京都交響楽団記念碑的大作の記念碑的公演文:柴田克彦第849回 定期演奏会 Aシリーズ3/20(火)19:00 東京文化会館問 都響ガイド0570-056-057 http://www.tmso.or.jp/ インバルが都響のシェフから桂冠指揮者となって早4年。彼が振る公演はますますスペシャル感を強めている。それは出演自体の貴重さに加えて、都響の音がいつになく緊迫感を帯びるからだ。そしてその緊迫感が最大限に生きる作品といえば、ショスタコーヴィチの交響曲であろう。 インバルは1990年代にウィーン響と同作曲家の交響曲全曲を録音し、絶賛を博している。だが20年を経て、円熟味と強靭な高機能サウンドが結合した都響での鮮烈な演奏は、もはや別次元。これまで第4、5、8、10、12、15番で圧倒的成果をあげてきた。そこに今回、第5番に次ぐ人気作、第7番「レニングラード」が登場する。 第二次世界大戦におけるレニングラード包囲戦の真っ只中で作曲され、戦闘や勝利への士気を反映した本作は、スペクタクルな迫力もシリアスなトーンも明快な旋律も感動的な凱歌も含まれた壮大な傑作。ただしショスタコの常として、既存曲からの引用の意味深さや隠された皮肉が指摘されてもいる。また全4楽章・約75分の半分近くを第1楽章が占め、有名な「戦争の主題」の反復が高揚感をもたらす。ところがそこでメーターを振り切ると後半には息切れし、さりとて曲全体のバランスを意識し過ぎると不完全燃焼に陥る。つまり一筋縄ではいかない作品なのだ。 だからこそ今回は聴き逃せない。張り詰めた緊張感、引き締まった造型、推進力抜群の運び、微細な彫琢が相まった彼らの演奏は、前記の全てを超越した、凄絶にして深遠な“交響音楽”を実現させるのではないか。そうしたかつてない名演への期待に胸が膨らむ。エリアフ・インバル ©Sayaka Ikemoto千住 明:オペラ《万葉集》 明日香風編(演奏会形式)美しき大和ことばが紡ぎ出すいにしえの恋物語文:伊藤制子2/18(日)14:00 八王子市芸術文化会館 いちょうホール問 八王子市学園都市文化ふれあい財団042-621-3005 http://www.hachiojibunka.or.jp/ 2009年に初演されて以来、好評を得て再演を重ねてきた千住明のオペラ《万葉集》。その第1部「明日香風編」が、2月18日、八王子のいちょうホールで演奏会形式によりふたたび披露される。 俳人として人気の黛まどかが台本執筆を行った《万葉集》は2部からなるオペラで、その第1部「明日香風編」の舞台は7世紀。中大兄皇子(天智天皇)、大海人皇子(天武天皇)という兄弟、万葉の女流歌人・額田王、その姉とされる鏡王女が繰り広げる恋物語を軸にした華麗な歴史絵巻である。万葉集からとられた名歌とそれをつなぐ歌詞が、いにしえのロマンの世界にいざなってくれる。創作に加えて編曲、プロデュースなど多彩な活動を展開してきた千住の音楽は、従来のいわゆる現代音楽にとどまらないドラマティックな魅力を備えている。台本の日本語を引き立てる洗練された響きに彩られており、日本語オペラを初めて聴く人にも楽しめるものとなっている。 東京交響楽団を指揮するのは、初演成功の立役者でもあり、千住作品のもっともよき理解者である大友直人。そして共演する歌手は、額田王役の盛田麻央をはじめ、鏡王女の金子美香、中大兄皇子の又吉秀樹、そして大海人皇子の原田圭といった日本語歌唱にも長けた歌手が揃った。恋物語に華を添える合唱は、地元の八王子クリンゲンコア(合唱指揮:足立さつき)。演奏会前半にはチャイコフスキーの弦楽セレナードが演奏されるので、こちらも併せて楽しみたい。盛田麻央金子美香 ©Yoshinobu Fukaya(aura)又吉秀樹原田 圭大友直人 ©Rowland Kirishima

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