eぶらあぼ 2018.2月号
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41マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ) 至高のピアニスト、日本最後のステージ文:江藤光紀4/12(木)、4/17(火)各日19:00 サントリーホール 1/20(土)発売問 ミュージックプラント03-3466-2258 http://www.mplant.co.jp/ マリア・ジョアン・ピリスの演奏は祈りを思い起こさせる。見栄や虚飾を排し淡々と、しかし音楽に真摯に向かい合う姿勢に、やがて会場の空気までが澄み切ってくるような気分になる。そして美しく彫琢された音が紡ぎだす旋律に乗って、私たちも高みへと連れていかれる。こんな体験をさせてくれるピアニストは他にいない。やはり唯一無二だ。 大の親日家のピリスが初来日したのは1969年、半世紀近くが過ぎた。2018年をもって引退ということなので、4月の来日公演が実演を聴く最後の機会となる。残念だ。が、多くの名演を届けてくれただけでなく、マスタークラスやテレビ番組を通じ、音楽の伝道師となってくれたことに感謝せねばなるまい。 東京公演は2プログラム。4月12日はベートーヴェンの「悲愴」で重々しく始まった後、シューベルト(3つのピアノ曲 D946)の無垢な旋律が会場を羽ばたく。後半は再びベートーヴェンの最後のソナタ、第32番。天界に昇っていくような浄化された結尾は、彼女の最後の来日公演にふさわしい。4月17日はモーツァルトのピアノ・ソナタ第12番・第13番。メロディも構造もシンプルなこういう曲でこそ、ピリスのピュアな音楽性がにじみでる。後半はメロディ・メーカーとしてのシューベルトの魅力がたっぷりと味わえる「4つの即興曲 D935」。 テクニカルな曲や派手な曲ではなく、全体に簡素でしっとりと、そして最後には清々しく晴れやかな気分になる作品を選んでいるあたりに、ピアニストとしての最後の時を迎えている彼女の胸のうちが表れているように思う。©Felix Brode/Deutsche Grammophon英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団『眠れる森の美女』『リーズの結婚』伝統に彩られた様式美を堪能文:上野房子『眠れる森の美女』 5/18(金)~5/20(日) 東京文化会館 5/13(日)14:00 びわ湖ホール『リーズの結婚』 5/25(金)~5/27(日)東京文化会館東京公演 1/20(土)発売 ※全国公演の詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。問 NBSチケットセンター03-3791-8888(5/13以外) http://www.nbs.or.jp/  びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136(5/13のみ) http://www.biwako-hall.or.jp/ 英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団が3年ぶりに来日、英国らしさ満載の2作品を上演する。 日本公演の幕開きを飾る『眠れる森の美女』は、長らく芸術監督を務め、同団の世界的評価を高めたピーター・ライトの振付による。帝政ロシアで育まれた古典バレエを基盤に発展したお国柄ゆえ、チャイコフスキーの音楽を用いたこの不朽のバレエは、バーミンガムでも重要なレパートリーとして踊り継がれているのだ。美技をちりばめた振付に絢爛たる美術やマイムを多用した演出で、往時のバレエの栄華を見ることができる。 アリーナ・コジョカルがオーロラ姫役に客演するのも眼目のひとつ(5/18, 5/20)。英国ロイヤル・バレエ団で大輪の花を咲かせ、現在はイングリッシュ・ナショナル・バレエに籍を置く英国の至宝が、久々に日本の舞台で古典の全幕ものに主演する。 『リーズの結婚』は、英国ロイヤル・バレエ団の育ての親、フレデリック・アシュトンが振り付けたロマンティック・コメディの逸品。箱入り娘リーズが、彼女を裕福な御曹子と結婚させようと奮闘する母親を出し抜いて、恋人コーラスとゴールインするまでを描いていく。アシュトン独特の細やかなステップに彩られた振付と軽妙洒脱な語り口で、また味わいの異なる英国スタイルを堪能したい。 この演目にも旬の逸材をゲストに迎える。パリ・オペラ座バレエ団のマチアス・エイマンが、コーラス役を演じるのだ(5/25,5/27)。リーズ役にお目見えするのは、ローザンヌ国際バレエコンクール入賞を機にロイヤル・バレエ・スクールに学び、バーミンガムでプリンシパルに昇りつめた英国育ちの平田桃子。心踊るキャスティングである。『リーズの結婚』 写真2点 Photo:Bill Cooper『眠れる森の美女』

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