eぶらあぼ 2018.2月号
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Presented by Shizuoka Cultural Foundation 公益財団法人 静岡県文化財団(グランシップ)は、作曲家でピアニストの野平一郎とNHK交響楽団による全3回にわたる新しい演奏会シリーズを始動させる。グランシップは大・中のホールを擁する大規模な複合施設で、静岡駅から一駅の東静岡駅近くにあり、駅まで徒歩圏の好立地。これまで東海地方におけるクラシック音楽の発信の一翼を担ってきた。シリーズは3回にわたり、小編成のバロックからフル・オーケストラの大編成までの名曲と、野平自身の新作を併せて楽しんでもらおうという、静岡が全国に向けて発信する斬新な企画だ。 3月3日に開催される第1回は、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲「四季」とバッハの「3つのヴァイオリンのための協奏曲 BWV1064a」。第2回はモーツァルトを中心とした古典派名曲(2019年)、そして第3回はフル・オーケストラによる作品(2020年)へと続く。 「毎回、私の新作をお聴きいただくことになりますが、3回シリーズ全体で三部作として完結する予定です。回を追うごとに編成も演奏時間も規模を拡大していく趣向になっています」 野平はもともと静岡とは縁が深い。 「静岡市が運営する静岡音楽館AOIとのお付き合いは長く、芸術監督の仕事もすでに15年になりますし、県立のグランシップでも様々な仕事をさせていただきました。演出家の宮城聰さんが芸術監督をつとめる静岡県舞台芸術センター(SPAC)とも、互いに交流する機会がもてたのも刺激になりました。静岡での活動を通じて音楽的に成長できたと考えていますので、自身の創作の集大成になるような三部作にしたいと思っているところです」 共演するN響はここ10年くらいの間に団員がだいぶ入れ替わってきた。名匠パーヴォ・ヤルヴィのもと、新たな時代を迎えており、今回のメンバーには比較的若手が多い。 「新作を作曲する際には、演奏者のことを常に念頭においてきましたので、日本を代表するオーケストラであるN響とご一緒できるのは嬉しいことです。近年の若手はソルフェージュ能力が高く、演奏技術の水準も上がっており、現代作品にも以前の世代と比べて慣れています。初演曲でも表現により深く踏み込むことができる演奏家たちなので、彼らのために作曲できるのは大変光栄です」 新作全体のタイトルは『静岡トリロジー(三部作)』で、今回初演される第1曲は「記憶と対話」という10分くらいの作品だ。 「一緒に演奏されるヴィヴァルディ、バッハ作品と私の新作とはとくに関連性はないのですが、チェンバロを少しだけ使う部分があります。現代社会の虚無や不安定さが私の創作の根底にあり、今回は日本一高い富士山と駿河湾の深海を擁する静岡が経てきた膨大な時間と空間にも思いを馳せていますが、何かを描写する音楽ではありません。唯一曲の最後に県の鳥である三光鳥の鳴き声があらわれるのが、直接の素材でしょうか。限られた人数の弦楽器から、可能なかぎり多彩な表現の幅を引き出したいと考えていますので、腕利きの奏者たちによる響きの違いなども楽しんでいただけばと思います。静岡だけのオリジナルな企画ですので、ぜひご期待ください」NHK交響楽団×野平一郎プロジェクトシリーズⅠ〜N響メンバーによるバロック編+野平一郎 新作〜3月3日(土)15:00 グランシップ中ホール・大地S席¥4,100 A席3,100 こども・学生¥1,000問 グランシップチケットセンター054-289-9000http://www.granship.or.jp/「自身の創作の集大成となるような“三部作”を発表します」取材・文:伊藤制子Ichiro Nodaira/作曲

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