eぶらあぼ 2018.1月号
56/183
53ユーリ・テミルカーノフ(指揮) 読売日本交響楽団剛毅で気骨あふれる音楽文:江藤光紀第575回 定期演奏会2/16(金)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jp/ テミルカーノフの物静かで落ち着いた語り口からは、思索深い知性の人という印象を受ける。ところが指揮棒を使わず、すっと両手をあげ柔らかく振りおろすと、その腕先からはぴしっと規律が行き届いた、剛毅で気骨あふれる音楽が流れ出す――このギャップがたまらない。 2015年に読響の名誉指揮者に就任したことにより、音楽監督在位30年になろうとする名門サンクトペテルブルグ・フィルの来日を待たずとも、その芸術をより身近に接することができるようになった。読響2月定期は、そんなマエストロが硬軟を自在に織り交ぜ音のファンタジーを満喫させてくれる。 チャイコフスキー「フランチェスカ・ダ・リミニ」はダンテの神曲を素材に、禁断の恋と地獄の業火を描く。切なくメランコリックな旋律とドラマティックなオーケストレーションが愛に焦がれ炎に焼かれる女性の姿を浮かび上がらせる。ニコライ・ルガンスキーはラフマニノフを得意とするピアニストで、「パガニーニの主題による狂詩曲」の独奏には絶好の人選。コマーシャルにも使われた中間部の美しい変奏が有名だが、オケとの掛け合いで発揮される軽妙なピアニズム、ユーモラスな味わいにも耳を傾けよう。 ラヴェル「クープランの墓」では読響木管の多彩な音色から生まれるエスプリに注目。レスピーギ「ローマの松」では精妙な管弦楽法が私たちを古代ローマの名所へと誘ってくれる。クライマックスではテミルカーノフの下、読響が一糸乱れぬ隊列を組み、アッピア街道を進み近づいてくる大群を圧倒的な迫力で描き出してくれるだろう。ニコライ・ルガンスキー ©Jean-Baptiste Millotすみだ平和祈念コンサート2018 《すみだ × 広島》広響を招いて“祈り”と“希望”託すコンサートを文:オヤマダアツシ下野竜也 × 広島交響楽団 3/8(木)19:00上岡敏之 × 新日本フィルハーモニー交響楽団 3/10(土)18:00すみだトリフォニーホール問 トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 http://www.triphony.com/ 太平洋戦争末期、東京大空襲があった3月10日は、多くの犠牲者を出した墨田区にとって特別な意味を持つ日。すみだトリフォニーホールにとっても同様であり、この時期は毎年「すみだ平和祈念コンサート」が行われる。 ホールが開館20周年を迎えた今シーズンは、やはり戦争で大きな傷を負った広島から、平和貢献を活動理念のひとつとする広島交響楽団が来演。2017年4月から音楽総監督を務めている下野竜也と共に「祈りから希望へ」というストーリーがありそうなプログラム(ゼレンカによる憐れみの歌「ミゼレーレ」、ベートーヴェンの「英雄」交響曲から第2楽章、シューマンの交響曲「春」など)でコンサートを行う。首都圏の音楽ファンにとっては、新時代を迎えたこのオーケストラが聴ける大きなチャンス。藤村実穂子(メゾソプラノ)がマーラーの歌曲集「亡き子をしのぶ歌」を歌うことも、こうしたコンサートだからこそ心に迫るものになるはずだ。 一方で、このホールを本拠地とする新日本フィルハーモニー交響楽団は音楽監督の上岡敏之が指揮台に立ち、ブラームスの交響曲第1番ほかを演奏する。ゲスト・ソリストには、クリスチャン・テツラフに師事し、これからの活躍がますます期待できる大江馨が登場。ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を演奏することにも注目が集まるだろう。定期演奏会にも相応しいプログラムだが、この時期に聴くことで別の感興も湧いてきそうである。上岡敏之 ©堀田力丸ユーリ・テミルカーノフ ©読響下野竜也 ©三浦興一
元のページ
../index.html#56