eぶらあぼ 2018.1月号
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36イェルク・ヴィトマン(クラリネット) ――無伴奏20世紀の古典から“自作”まで披露する意欲的なステージ文:江藤光紀1/14(日)17:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com/ イェルク・ヴィトマンはドイツ作曲界の中堅世代にあって、最も重要な作曲家の一人である。オペラから弦楽四重奏まで創意あふれる作品を次々に発表し、その多くがレパートリー化している。と同時に彼は、現代を代表するクラリネット奏者でもある。自作はもちろん著名作曲家の新作初演などでも大向こうをうならせる一方で、モーツァルトやブラームスの名曲にもウィットの効いたチャーミングな録音を残し、今や世界中でひっぱりだこ。片方が主でもう一方が従ではなく、一流の作曲家で、なおかつ一流のクラリネット奏者なのだ。近年は指揮にも活動を広げているという。 この1月にトッパンホールで行われるリサイタルはクラリネット無伴奏。専業クラリネッティストでもソロ公演は珍しいから、いかにトッパンホールがヴィトマンの才能を“買っている”かがうかがえる。期待に応えるべくヴィトマンが立てたプログラムも、20世紀の古典から自作に至る多彩なもの。ベリオのどこか瞑想的な「リート」で始まり、初期の自作「幻想曲」に近作「3つの影の踊り」を続ける。後者は微分音、多重音、キーを叩く音、絶叫などが即興的に組み合わされたアイディアの宝庫で、その作風の一端が自身の演奏で味わえる。メシアン「世の終わりのための四重奏曲」からクラリネット独奏の楽章(鳥たちの深淵)、ストラヴィンスキー「パブロ・ピカソのために」と現代の古典に目配りした後、ヴィトマンが初演したホリガー「レシャント」、ルジツカ「3つの小品」の2作品へとつなげ、最後は師匠リームから献呈された「4つのしるし」で締める。©Marco Borggreve飯守泰次郎(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団比肩する者なき王道を体感する文:柴田克彦第312回 定期演奏会 ブラームス交響曲全曲演奏シリーズⅠ1/20(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ 「ため息をつくように始まり、熱狂と興奮のうちに幕を閉じる午後のひととき」のコピーがいい。本公演を端的に表してもいる。飯守泰次郎が東京シティ・フィルの定期演奏会で「ブラームス交響曲全曲シリーズ」を始める。冒頭の言は、第4番と第2番が披露される第1回公演のチラシの一文だ。 飯守マエストロは、バイタリティを保ちながらますます円熟を深めている。2014年からオペラ部門の芸術監督を務める新国立劇場の《ニーベルングの指環》などその好例。特に17年10月の《神々の黄昏》は、壮大かつエネルギッシュに音楽を鳴らし切る快演だった。そんな飯守が、以前常任指揮者を務め、現在桂冠名誉指揮者の任にある最も意思疎通を図れる楽団、東京シティ・フィルとブラームスの交響曲シリーズを行うとなれば、耳目を惹かれるのも当然だろう。同楽団とは、ワーグナーのオペラや、ベートーヴェン(ベーレンライターとマルケヴィチ版)、チャイコフスキー、ブルックナーの各交響曲シリーズを共に行っているので、ブラームスに至るのは自然の流れ。重厚にして滔々と運ばれながら各フレーズが息づいた、他の追随を許さないドイツ・ロマン派音楽を聴かせてくれるに違いない。 今回興味深いのは、最後に到達した第4番で始まる点。しかも後半は前向きな第2番だ。古典への回帰と未来への示唆を併せ持つ第4番は、まさに「ため息をつくように」始まり、明朗で牧歌的な第2番は「熱狂と興奮のうちに」幕を閉じる。この“憂愁から歓喜へ”の推移も相まって、唯一無二のブラームス体験が得られることへの期待に胸が踊る。飯守泰次郎 ©金子 力

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