eぶらあぼ 2018.1月号
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35新国立劇場 開場20周年記念公演細川俊夫/サシャ・ヴァルツ:《松風》(新制作・日本初演)ダンスと声楽が一体となって現れる幽玄な世界文:乗越たかお2/16(金)~2/18(日) 新国立劇場 オペラパレス問 新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999 http://www.nntt.jac.go.jp/opera/ ドイツのコンテンポラリー・ダンスでは、もはや大御所といえるサシャ・ヴァルツ。今回新国立劇場で上演するのは、能の名作『松風』を下地に細川俊夫が作曲した1幕5場のオペラである。能『松風』は、海の精である松風(イルゼ・エーレンス)、村雨(シャルロッテ・ヘッレカント)の姉妹が、須磨に流された在原行平との悲恋を語る話だ。2011年にベルギーのモネ劇場で初演以来、高い評価を得てきた。ドイツ語の台本は、昨年、平田オリザの原作・演出、細川が作曲したオペラ《海、静かな海》(能の『隅田川』をモチーフに福島の原発事故を描く)でも協働した、気鋭の若手作家ハンナ・デュブゲンが手がけている。 美術には世界的に活躍している塩田千春が参加する。近年日本で公開された『鍵のかかった部屋』は無数の赤い紐を部屋中に張り巡らせたものだった。本作でも、舞台を覆う黒い紐状の舞台装置が効果的に使われる。それは絡まりあった松の葉のようにも、姉妹が住む海の底のようにも見える。 ヴァルツはダンスでも演劇的な要素を豊かに取り入れながら、身体のリアルを強く深く追求してきた。今回もダンスは自身のカンパニーであるサシャ・ヴァルツ&ゲスツが出演する。彼女は「コレオグラフィック・オペラ」というスタイルを提唱しているが、これは歌手やコーラスにもダンス的要素を要求するものだ。「舞踊とオペラが融合した新しい作品形態を最も的確に実現」することを期して作曲したという細川の言葉を考えると、ヴァルツとのコラボレーションは最高の形でのオペラ上演といえるだろう。管弦楽はデヴィッド・ロバート・コールマン指揮の東京交響楽団。モネ劇場公演(2011年)より ©Bernd Uhlig大野和士(指揮) 東京都交響楽団20世紀初頭のウィーンに生まれたドラマティックな傑作2編文:飯尾洋一第846回定期演奏会 Bシリーズ 1/10(水)19:00 サントリーホール問 都響ガイド0570-056-057 http://www.tmso.or.jp/ 音楽監督大野和士のもと、都響が新年最初の定期演奏会で奏でるのは、20世紀初頭のウィーンで初演された音楽。R.シュトラウスの組曲「町人貴族」とツェムリンスキーの交響詩「人魚姫」という対照的な2つの作品が並ぶ。 組曲「町人貴族」はモリエールの戯曲をホフマンスタールが翻案した劇のためにシュトラウスが作曲した付随音楽がもとになっている。もともとこのモリエールの劇はフランス・バロック期の作曲家リュリがコメディ・バレに仕立てているのだが、シュトラウスとしてはコンパクトな編成のオーケストラを用いて、擬古的な装いを持った洒脱な作品を書きあげた。 一方、ツェムリンスキーの交響詩「人魚姫」は大編成のオーケストラを用いた後期ロマン派のスタイルで書かれた作品である。アンデルセンの童話『人魚姫』を題材としているが、濃厚なロマンティシズムを漂わせる起伏に富んだ表現は、一般にこの童話から連想される雰囲気よりもずっとスケールの大きなものだ。人魚姫の恋心と葛藤、絶望と救済が壮麗で幻想味あふれるオーケストレーションによって描かれてゆく。終楽章はとりわけドラマティックで、昇天のエンディングはワーグナーばりの「魂の救済」を思わせるほど。 そろそろお正月気分も抜けた頃に、がっつりと聴くシュトラウスとツェムリンスキー。都響の精緻なアンサンブルが大いに耳を楽しませてくれることだろう。大野和士 ©Rikimaru Hotta
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