eぶらあぼ 2017.12月号
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72シューベルト「冬の旅」 高橋悠治(ピアノ) 波多野睦美(メゾソプラノ)固定観念を覆す鮮烈な「冬の旅」文:寺西 肇2018.1/8(月・祝)14:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 ダウランドアンドカンパニイ042-390-6430http://www.dowland.jp/ 作曲とピアノ演奏を通じて、常に先鋭的なサウンドを構築する高橋悠治。そして、透明感と豊潤さを併せ持つ美声で、古楽から現代の作品までを歌いこなすメゾソプラノの波多野睦美。2人の名手が、シューベルト「冬の旅」のアルバムを発表した。傑作歌曲集の固定観念を覆す、鮮烈な音と言葉の世界。そんな旅を共にできる記念のステージが、冬の東京で開かれる。 「なぜ『冬の旅』を? と聞かれても、答えは『冬の旅だから』でしかない」と波多野は言う。その表現は変幻自在。言葉ごとの意味合いを丁寧に掬い取り、ヴィブラート表現ひとつも、フレーズとの関係性が熟考されている。さらに、澄み切った母音の表現や、「mit」「muss」など、特に「m」の包み込むような発音に、はっとさせられる。 かたや、高橋のピアノも、共に歌い、常に言葉を語り、単なる“伴奏”の域を超越。たとえ同じフレーズであっても、決して同じ表現が繰り返されるような箇所はない。楽想からざっくり感覚的にではなく、一つひとつの音符の表現を精査するから、スコア全体を組み上げてゆくような鋭い視点は、まさしく卓越した作曲家のそれだ。 「シューベルトは、この曲を初めて友人たちの前で弾き歌いをした時に言った。『僕はこれら全てが好きだ。君たちもきっと好きになる』。つぶやきは本当になった。無数の音楽家が『君たち』の1人となり、今日も世界中のどこかで、それぞれの旅を歩んでいる」と波多野。この言葉は、きっと、聴き手にもあてはまるだろう。室内楽ホール de オペラ~林 美智子の『フィガロ』!重唱のみの構成で傑作オペラを大胆にアレンジ文:宮本 明2018.3/18(日)、3/21(水・祝)各日14:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702http://www.triton-arts.net/ 「オペラの醍醐味はアリアだけではなく、人が集まってこその重唱が本当に面白い!」(林美智子)。大胆にも、アリアをすべてカットして重唱と台詞だけで《フィガロの結婚》を再構成したのがメゾソプラノの林美智子(台本・演出も)。それでも音楽の魅力が失われないのがモーツァルトの天才だ。主役を降りたアリアたちも、その断片が即興的にピアノに登場したり鼻歌で歌われたりして、いわば薬味として香り付けに回る。 昨年3月に、同趣向の《コジ・ファン・トゥッテ》(2006年制作)を第一生命ホールで再演した際、ホールの音響やサイズが企画にぴったりだと、林とホール側が意気投合、今回の『フィガロ』が生まれた。 シンプルな衣裳やセット(椅子のみ)の中、大きな存在感を放つのが舞台正面の字幕スクリーンだ。たとえイタリア語を十分に理解していても、異なる内容の歌詞が並行して歌われる重唱では特に、この大きな字幕が役に立つ。 もちろん林も出演(ケルビーノ/バルバリーナ)。加耒徹、澤畑恵美、黒田博、鵜木絵里、池田直樹、竹本節子、望月哲也、晴雅彦と、豪華な実力派トップ歌手たちを絶妙な役どころで起用できるのも、オペラ界の最前線で活躍する林美智子プロデュースならではだろう。この手の上演に欠かせない“一人オーケストラ”河原忠之(ピアノ)がプロダクション全体を締める。クオリティの高い歌と芝居、そして美しいアンサンブルを楽しめるのが必然の顔ぶれが揃った!過去の公演の様子(林 美智子90分の『コジ』!より) ©三次真二CD『冬の旅 高橋悠治+波多野睦美』ソネット MHS-005¥2800+税波多野睦美 Photo:Toshiyuki Kohno高橋悠治 え・柳生弦一郎
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