eぶらあぼ 2017.12月号
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53ウィーン・シェーンブルン宮殿オーケストラ ニューイヤー・コンサート2018本場のウィンナ・ワルツで新年のスタートを文:江藤光紀2018.1/11(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp/ クラシック・ファンならニューイヤーはウィンナ・ワルツで、という人も多いはず。聴き手をワクワクさせるチャーミングな歌い出しから体の動きに合わせた独特の拍の取り方まで、ウィンナ・ワルツには現地の人でないとなかなか出せない“本場の味わい”がある。どんなに語学が堪能な人でもネイティヴになりきれないのと似て、こうした味わいはなんといっても本場が強い。 さて、1997年に設立されたウィーン・シェーンブルン宮殿オーケストラは、基本的にウィーンで学び活動しているメンバーが結集した、いわば音楽上のネイティヴ集団だ。ハプスブルク家の歴代皇帝一族が離れとして用いた宮殿を本拠地に、ウィーンゆかりの作曲家の作品、とりわけハプスブルク王朝の輝きを彩るウィンナ・ワルツやオペレッタのナンバーを日常的に演奏している。この宮殿の音楽ホールは大理石で覆われ、空間装飾だけでなくゴージャスなサウンドでも知られているから、その音楽もおのずと気品と輝きを帯びるのではないか。 さて2018年初め、彼らは新春コンサートを終えたその足で日本に駆け付け、「美しく青きドナウ」「皇帝円舞曲」などJ.シュトラウスⅡのおなじみのメロディーだけでなく、カールマンやレハールのロマンティックな、あるいはエキゾティックなオペレッタのナンバーなど本場の味をたっぷりと披露してくれる。指揮は近年ウィーンを中心に活躍する若き首席客演指揮者のヴィニシウス・カター、歌唱はやはりウィーンに音楽のアイデンティティを持つシモーナ・アイジンガー(ソプラノ)、フィリップ・シュピーゲル(バリトン)だ。大野和士(指揮) 東京都交響楽団名手たちが一体となって挑む20世紀最高峰のシンフォニー文:江藤光紀第847回定期演奏会 Aシリーズ 2018.1/18(木)19:00 東京文化会館第848回定期演奏会 Cシリーズ2018.1/20(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 都響ガイド0570-056-057 http://www.tmso.or.jp/ 音楽監督3シーズン目も終わりに近づき、ますます共演に深みを増している大野和士と都響が、年明け早々の1月定期から20世紀音楽の金字塔、「トゥーランガリラ交響曲」に挑む。第二次世界大戦直後の荒廃した時代に、オリヴィエ・メシアンがそれまでの創造の総決算として作曲したもので、全10楽章80分近くに及ぶ長大な音楽には彼の音楽語法の全てが惜しみなく注ぎ込まれ、ピアノや8人の打楽器奏者に加え、電子楽器オンド・マルトノも大活躍する。 現代音楽に大きな影響を与えた曲、と書くと何やら物々しいが、「トゥーランガリラ」がサンスクリット語で「愛の歌」を意味することからも分かるように、複雑な理屈が分からなくても感覚的に楽しめる音楽だ。もとよりメシアンの音楽では官能と聖性が表裏だが、特にこの曲ではピアノと弦、オンド・マルトノが密やかに睦みあう愛を巡る楽章と、荒々しく躍動的な楽章が交互に現れ、中間楽章(星たちの血の悦び)と終曲では熱狂的な歓喜に至る。戦争からの開放感が、メシアンをしてここまでに饒舌な音楽を書かせたのだろう。 オンド・マルトノには日本の第一人者である原田節が、また終始派手に技巧を披露するピアノには幅広いレパートリーを誇るベルギーのヤン・ミヒールスが登場する。ミヒールスはこの作品に先立って、メシアンの弟子でスペクトル楽派の祖として知られるトリスタン・ミュライユが師を追悼したソロ曲「告別の鐘と微笑み」を取り上げる。鐘の音をはじめメシアンの語法や引用で彩られた美しい曲で、大作へのこの上ない食前酒になるだろう。原田 節 ©Yutaka Hamanoヤン・ミヒールス大野和士 ©Rikimaru Hottaウィーン・シェーンブルン宮殿オーケストラ
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