eぶらあぼ 2017.12月号
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45井上道義(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団夢と悪夢のグラデーション文:飯尾洋一第696回 東京定期演奏会12/8(金)19:00、12/9(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/ 井上道義が初めて日本のプロオーケストラの定期公演を指揮したのは、1976年の日本フィル東京定期演奏会だったという。当時のメイン・プログラムはベルリオーズの「幻想交響曲」。そんな縁で結ばれた井上と日本フィルが、40年以上の時を超えてふたたび「幻想交響曲」を演奏する。しかもプログラムがおもしろい。ラヴェルの「マ・メール・ロワ」組曲にはじまり、八村義夫の「錯乱の論理」、ベルリオーズの「幻想交響曲」と続く。 ラヴェルの「マ・メール・ロワ」で題材となるのは、「眠れる森の美女」や「美女と野獣」といった童話の世界。一方、「錯乱の論理」が生み出すのは混沌としたモダンな音響美。八村義夫は1938年に生まれ、85年に早世した作曲家。75年に作曲された「錯乱の論理」はピアノとオーケストラのための作品で、傑作として名高い。超難曲というピアノ・パートはこの曲の録音もある渡邉康雄が担う。そしてベルリオーズの「幻想交響曲」では、恋に破れ絶望してアヘンを吸った芸術家が、死刑を宣告されて、魔物たちの饗宴を目にする。 童話、錯乱、幻想という3段階のファンタジーが並べられたこの日のプログラム。どのようなストーリー性を読み取るかは聴く人次第。夢と悪夢のグラデーションとでもいうべきか。また、八村作品での精緻な管弦楽法が生み出す音色効果を含めて、作曲家の多彩な管弦楽法を聴くという点でも興味深い公演となりそうだ。渡邉康雄シルヴァン・カンブルラン(指揮) 読売日本交響楽団年初から“耳が洗われる”刺激的なニューイヤー・コンサート文:柴田克彦第203回 土曜マチネーシリーズ 2018.1/6(土)14:00第203回 日曜マチネーシリーズ 2018.1/7(日)14:00東京芸術劇場 コンサートホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jp/ 「《こうもり》序曲」「南国のバラ」「雷鳴と電光」「美しく青きドナウ」などの曲名を見て、いつものニューイヤー・コンサートか…と思ったら大間違い。これらをカンブルラン&読響が演るとなれば、興味は数倍に膨らむ。何せ彼が振るといかなる名曲も積年の垢を落とした清新な音楽に変身。引き締まった構築と精妙な音のバランスが、楽曲の生気や隠れた魅力を浮上させる。ベートーヴェン、チャイコフスキー、マーラー等どれもがそう。今回はウィンナ・ワルツでそれが実現する。しかもラヴェル、デュカス、オッフェンバック、サン=サーンスという彼の母国フランスの作品が彩りを加える。この珍しい組み合わせもカンブルランの面目躍如。《天国と地獄》のカンカンがどうなるか楽しみだし、万人がエキサイト必至の《サムソンとデリラ》の〈バッカナール〉は、一流オーケストラの公演で聴く機会が少ないだけに、ぜひとも耳にしたい。 さらには、人気ヴァイオリニスト・三浦文彰も出演。大河ドラマ『真田丸』のテーマ演奏で注目を集めた彼は、難関のハノーファー国際コンクールを史上最年少で制した実力を、ウィーン留学でいっそうブラッシュアップさせた。ヴィエニャフスキの佳品とワックスマンの「カルメン幻想曲」(超絶技巧曲!)を聴かせる今回は、その手腕を端的に味わう絶好機となる。 最近ますますゴージャスな輝きを増す読響のサウンドで、こうした名曲を聴けるのも嬉しい限り。加えてカンブルランは、オペラの経験豊富な“語り上手”でもある。このハイセンスで新鮮なニューイヤー・コンサートは、ファンにもクラシック・ビギナーにもお薦めだ。シルヴァン・カンブルラン三浦文彰 ©Yuji Hori井上道義 ©Mieko Urisaka

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