eぶらあぼ 2017.12月号
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28 アリーナ・ポゴストキーナAlina Pogostkina/ヴァイオリンBBC響との共演では心をオープンにして臨みます取材・文:東端哲也 英国の名門BBC交響楽団が来年3月、首席指揮者のサカリ・オラモとの初コンビで4年半ぶりに来日。3プログラムのうち、川崎など全国5都市の公演でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のソリストを務めるアリーナ・ポゴストキーナにも注目が集まっている。すでに読売日本交響楽団(2008年)やNHK交響楽団(11年)と共演を重ねている彼女はロシア生まれ。1992年からドイツへ移住し、その後ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で学んでいる。 「父に就いてヴァイオリンを始めたのは4歳からです。人前で演奏するのが大好きで、いつもステージに立つ自分を夢見ていました。普段はぬいぐるみや人形を相手に弾いていたので、家に来客があると嬉しかったことを覚えています(笑)。8歳でドイツに移ってからもレッスンを続け、19歳で音楽大学に入るまでは父が私の先生でした。彼は、古いタイプのロシアの音楽教師で教え方も厳しかったけれど、技術的にも音楽的にも現在の私の基礎を作ってくれました。一方、大学で師事したアンティエ・ヴァイトハース先生からは、特に様式について、例えばモーツァルトの音楽がバッハやブラームスとどう違うかなどについて重点的に学びました。先生は父のように、ただ“こうしなさい”と言うのではなく“あなたはこれをどう感じるの? どうしたいの?”と常に問いかけてくるタイプ。自分で考え、自分の音を見つけることの大切さを教えてくれました」 エリーザベト王妃国際コンクールをはじめ、数々の著名コンクールで入賞。2005年シベリウス国際ヴァイオリンコンクールで優勝を果たして以来、世界中の音楽祭やコンサートに出演し活躍中。そのレパートリーも幅広い。 「ロシアの作曲家はもちろん大好きですし、学生時代にザルツブルクでバロック時代のヴァイオリンについて学んでからそちらにも傾倒したり、いろいろと興味は尽きません。でも大事なことは何を演奏するかではなく、どう演奏するか。ステージでは自分の感情の全てを、心から惜しみなく表現したいのです」 録音も多く、特に12年にリリースされたラトビアの現代作曲家ペトリス・ヴァスクスによるヴァイオリン作品全集は高く評価されている。 「以前から彼の作品のファンでしたので、実際にお会いしてすぐ、私たちは仲の良い友達になりました。彼が私のことを自分の良き理解者と認めてくれて、全集の奏者に選んでくれたことをとても光栄に思っています」 今回演奏するチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲はあまりにも有名な王道曲だ。 「確かに10代の頃から数え切れないくらい演奏してきた作品です。一時期は自分でも新鮮さを感じなくなって意図的にレパートリーから外してしまっていたこともありました。でも何年か経って、ある友人に誘われて久しぶりに弾いてみた時、全く違った角度からこの作品を捉えている自分に気がついたのです。人生で経験した様々な出来事が曲にオーバーラップして、以前は感じなかった色彩が見え、気にも留めていなかった曲想に心惹かれるようになって、またこの作品に恋してしまっていたのです。偉大な名曲にはそんな魔法が起こるものですね。また、個人的にも母親になってから物事の見方もいろいろと変化して、曲に対する解釈も随分変わったと思います。ですから来年の3月にはできるだけ心をオープンにして、その瞬間の私らしいアプローチでこの作品に臨みたいです」 サカリ・オラモ&BBC響とは今年の9月末、2017/ 18シーズンのオープニング・コンサートでベルクのヴァイオリン協奏曲を演奏したばかり。 「ロンドンのプロ・オーケストラはどの団体も技術的に素晴らしいことは知っていましたが、特にBBC響の演奏にはハートがあります。楽団メンバーも皆さん素敵な人たちばかりで、私をあたたかく迎え入れて、音楽的にもしっかりサポートしてくれました。そしてオラモさんとはもう10年以上のお付き合いで、私のメンターとも言うべき尊敬できるマエストロ。このコンビと大好きな日本で再び演奏できることを心から楽しみにしています」

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