eぶらあぼ 2017.12月号
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27クラリネット界のスターが名門オーケストラと織りなす濃密なコラボレーション取材・文:宮本 明 ベルリン・フィル首席クラリネット奏者アンドレアス・オッテンザマー。父エルンスト、兄ダニエルはともにウィーン・フィルの首席クラリネット奏者という“クラリネット・エリート”だ。11月、初来日のスイスの老舗オーケストラ、ヴィンタートゥール・ムジークコレギウムと3曲の協奏曲を吹く。このオーケストラ、1629年創設というヨーロッパ最古の楽団のひとつ。 「すごく長い伝統があるけれど、メンバーが非常に若くてエネルギーに溢れているから、それを感じさせない。いいことだよね。過去の歴史や遺産にしばられることなく、一歩前に出て、自分たちの音楽づくりができるオーケストラなんだ。オープンで、彼らといると、とても気持ちがいい」 昨シーズンは楽団のアーティスト・イン・レジデンスを務め、頻繁に共演した。 「とても濃密なコラボレーションができた。スイス国内のツアーにも同行したし、クラリネットを吹きながら指揮をすることにも挑戦させてもらったしね」 今回彼が吹くのは、ヨハン・シュターミッツの協奏曲、ダンツィの《ドン・ジョヴァンニ》の〈お手をどうぞ〉による幻想曲、そしてウェーバーの小協奏曲。2月にデッカからリリースされた最新CD『New Era』の収録曲をベースにしたプログラムを、今回も指揮しながら吹く。 「クラリネットが広まり始めたマンハイム楽派に焦点を当てた構成。まずその創始者の一人であるヨハン・シュターミッツ。最も初期のクラリネット協奏曲と言われている、非常に朗々とした美しい作品だよ。そしてダンツィ。モーツァルトはマンハイムでクラリネットに出会ったのだけれど、ダンツィは、そのモーツァルトとのつながりも濃く、また次のウェーバーの先生でもある。全体の流れとしては、クラリネットが前古典派からウェーバー以降、ロマン派で開花する流れも聴いてほしいので、ベートーヴェンの交響曲や序曲(ともに指揮者なし)も。こういう具合に何か共通点を見つけて作品を組み合わせるのが好きなんだ。お客さんが聴いて何か感じてもらえるように、ちょっとプラス・アルファを考えたくて」 さて、父エルンストが今年7月に心臓発作のため、わずか61歳で急逝したのは、日本のファンにとっても突然の悲しいニュースだった。心よりお悔やみを申し上げたうえで、いささか不謹慎ですがと、父親の後を継いで空席となったウィーン・フィルの首席クラリネット奏者の席に座り、兄と共演するつもりはないのか尋ねてみた。しかし答えは即答で「ノー」。 「ウィーンのシステムは僕には忙しすぎるよ。あっちはオペラがあるから」 確かにそうかもしれない。ちなみにこの取材が行なわれた、去る10月初旬のアンサンブル・ウィーン=ベルリン来日公演から、11月のラトル&ベルリン・フィルおよびヴィンタートゥールとの再来日までのスケジュールを聞いて驚いた。日本からロンドン→ビュルゲンシュトック(スイス)→ベルリン→レイキャビク(アイスランド)→ケンブリッジ→ベルリン→ウィーンと約4週間絶え間なく移動して協奏曲やリサイタルに出演、11月初めにようやくベルリン・フィルのアジア・ツアーに合流し、中国、韓国を経て日本にやってくるのだという。 そんな超過密スケジュールの中、こうして「吹き振り」も手がけるということは、もしかして指揮活動も視野に? 「経験をさせてもらって、なんとなく感じはわかってきたけれど、もし本当にやるのなら時間をかけないとね。大変なステップだし、ものすごく責任のある仕事だから」 1989年生まれ。カラヤンが逝った年に、代わりに生まれてきたのだからと水を向けると、目をつぶって指揮をする仕草をしてひと言。「まず髪をリーゼントにしなきゃ」(笑)Informationアンドレアス・オッテンザマー(クラリネット)&ヴィンタートゥール・ムジークコレギウム[曲目]ベートーヴェン:「コリオラン」序曲J.シュターミッツ:クラリネット協奏曲変ロ長調ダンツィ:モーツァルトの歌劇《ドン・ジョヴァンニ》の 〈お手をどうぞ〉による幻想曲ウェーバー:クラリネット小協奏曲ベートーヴェン:交響曲第7番11/29(水)19:00 すみだトリフォニーホール問 ヒラサ・オフィス03-5429-2399http://www.hirasaoffice06.com/11/30(木)19:00 ザ・シンフォニーホール問 ザ・シンフォニー チケットセンター06-6453-2333 http://www.symphonyhall.jp/
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