eぶらあぼ 2017.12月号
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168CDCDCDブルックナー:交響曲第5番/スクロヴァチェフスキ&読響中山悌一メモリアル/中山悌一第6回仙台国際音楽コンクール ヴァイオリン部門優勝/チャン・ユジンブルックナー:交響曲第5番(原典版)スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(指揮)読売日本交響楽団シューマン:「ケルナーの詩による12の歌曲」より、きみは花のよう/ブラームス:五月の夜、日曜日/ヴォルフ:あなたの亡くなったお母さんに幸あらんことを、少年鼓手、祈り、散歩/シューベルト:「ヘリオポリス」より第二、盲目の少年 他中山悌一(バリトン)小林道夫 水谷達夫 中山靖子(以上ピアノ)メンデルスゾーン:ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調(1838年)/ストラヴィンスキー:ディヴェルティメント/グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第2番/シベリウス:「6つの小品」よりチャン・ユジン(ヴァイオリン)小澤佳永(ピアノ)収録:2008年4月、サントリーホール(ライヴ)日本コロムビアCOCQ-85385 ¥2800+税日本伝統文化振興財団VZCC-1047 ¥3000+税オクタヴィア・レコードOVCL-00641 ¥3000+税ザールブリュッケン放送響との全集でも第5がひときわ異彩を放っていたように、“ミスターS”の特質たる綿密なテクスチュア造形、声部のバランスコントロールはこの曲の構造を見事にあぶり出す。本盤はそのザールブリュッケン盤(1996年)の12年後、読響を指揮した待望の初出ライヴ盤。根本的な解釈の相違こそないものの、オケの上手さと指揮者の円熟が素晴らしい相乗効果を発揮し、ともすると明晰さと引き換えにスケールは小ぶり、豊かさが犠牲とされていた96年盤と比較してその音楽は遥かに風格を増す。掛け値なしの名演。終楽章コーダでの「木管浮き上がり」も健在! (藤原 聡)二期会創立者の一人、中山悌一(1920〜2009)の新発見音源を含むドイツ歌曲集。遺品の音源を調査したところ、冒頭のケルナー歌曲集が1957年(37歳)のスタジオ録音であることが、その時ピアノを弾いた小林道夫の手帳から判明したという。この5年前に二期会を設立してすぐに渡独、ゲルハルト・ヒュッシュに師事して帰国した翌年の壮年期の声だ。凛々しいバリトンの美声と美しい発音。現役時代を知らない我々が、もし“ひと昔前のオペラ歌手”とひと括りに認識していたらすぐに改めたい。現在の水準に照らしても、世界の第一線で通用する名歌手がここにいる。(宮本 明)2016年仙台国際音楽コンクールで優勝した1990年韓国生まれの俊英の、セッションによる最新録音。全体にまろやかな音色と楽曲に即したナチュラルな表現が印象的だ。メンデルスゾーンのソナタが流れ出した瞬間に、伸びやかな音と歌い回しが耳を奪い、曲を通してフレッシュな秀演に魅了される。ストラヴィンスキーの「ディヴェルティメント」は、シャープながらも内に温かさを湛え、グリーグのソナタは、情熱の中に美しい抒情が滲む。しっとりと聴かせる同曲の第2楽章は特に秀逸。終楽章の高揚感も申し分ない。近年の新鋭の録音の中でも惹かれる1枚。 (柴田克彦)CDバッハの森からの贈りもの~オルゲルビュッフライン~/宮本とも子J.S.バッハ:オルゲルビュッフライン(オルガン小曲集)BWV599-644宮本とも子(オルガン)コジマ録音ALCD-1167 ¥2800+税聖書学者の石田友雄が創設、30年以上も教会音楽の研究を続けている私塾「バッハの森」(茨城県つくば市)。40年にわたって歴史的鍵盤楽器の演奏に取り組む宮本とも子が、同所の奏楽堂に設置されたアーレント・オルガンを弾き、バッハが作曲とペダル奏法の手引きを兼ねて編んだ、コラール小曲集を録音した。ストップの選択ひとつとっても、決して奇を衒うことはない。ただひたすら真摯かつ正直に、作品と楽器に対峙。そんな彼女の姿勢は、まるで祈りのよう。ヴェルクマイスターⅡの調律が創出する清澄な響きも相まって、ドイツの片田舎の小さな教会堂で、これらの音楽を慈しんでいる感覚になる。 (寺西 肇)
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