eぶらあぼ 2017.12月号
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162SACDSACDCDSACDJ.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番~第6番/工藤重典ショパン:ノクターン集/ファジル・サイショパン:前奏曲集、ピアノ・ソナタ第3番 他/福間洸太朗エスプレッシーヴォ/礒 絵里子J.S.バッハ(工藤重典編):無伴奏チェロ組曲第4番~第6番(フルート編曲版)工藤重典(フルート)ショパン:ノクターン第1番~第6番・第8番・第9番・第11番・第13番~第15番・第19番~第21番ファジル・サイ(ピアノ)ショパン:24の前奏曲、子守歌、コントルダンス、ソナタ第3番福間洸太朗(ピアノ)ブラームス:スケルツォ/ラフマニノフ:ヴォカリーズ/プーランク:即興曲第15番「エディット・ピアフを讃えて」/クライスラー:中国の太鼓/モーツァルト(玉木宏樹~デュオ・プリマ編):トルコ行進曲/チャイコフスキー:ワルツ・スケルツォ 他礒 絵里子(ヴァイオリン)實川 風(ピアノ)神谷未穂(ヴァイオリン)マイスター・ミュージックMM-4019 ¥3000+税エイベックス・クラシックスAVCL-25944 ¥3000+税Ars ProduktionARS38237 ¥3000+税アールアンフィニ(ソニー・ミュージックダイレクト/ミューズエンターテインメント)MECO-1044 ¥3000+税日本を代表するフルートの名手・工藤重典が、自らの編曲で手掛けた「無伴奏チェロ組曲」の第2弾。実際に存在しない音まで想起させる“ハーモニーの暗示”こそ、この作品の演奏の鍵だが、単旋律で組み立てるフルートでは、さらなる困難が伴う。工藤は前作同様、的確なフレージングと変幻自在な強弱で臨み、ブレスや演奏空間の残響まで、“音楽の内側”へ。前打音的に吹くしかない重音にしても、舞曲の種別やハーモニーに応じて処理を変えていく。例えば、有名な第6番ガヴォットなど、もはや本当の重音に聴こえる巧みさ。工藤はこの録音で、フルートの新たな可能性への扉を開いた。 (寺西 肇)作品に強烈な命を吹き込むコンポーザー=ピアニスト、ファジル・サイ。彼が遂にというべきか、なぜか今というべきか、ショパンのノクターン集をリリースした。収録された15曲のノクターンを聴けば、彼がこれまでショパンを避けてきたのではなく、作曲家の息遣いを生々しいまでに聴き出そうとしていたことがわかる。闇に溶けるような夜想曲の甘さのために、サイはテンポ・ルバート(いわゆる揺れやタメ)に頼ることはしない。左手の繊細な立体感、和声変化への丁寧な反応で表現し、音楽の流れを停滞させずグイグイと深い叙情世界へと引き込む。これぞサイのショパンだ。 (飯田有抄)輝きをまとった美しい音色、自然なフレージングによって作品の本質を丁寧に伝えてくれるピアニスト、福間洸太朗の新譜はオール・ショパン・プログラム。ショパンが病やつらい状況などに見舞われながら、それに抗うように作曲した大曲である「前奏曲集」や「ソナタ第3番」を核に遺作の小品二つを配した内容であり、作品から説得力ある物語を紡ぎだすような福間のピアニズムが存分に発揮されたアルバムとなった。特に「前奏曲」は緻密で華麗な技術が駆使され、次々と展開する楽想に合わせて音色が万華鏡のように自在に変化することが特筆される名演だ。 (長井進之介)CDをかけるといきなりブラームス「F.A.E.ソナタ」スケルツォが始まり、「エスプレッシーヴォ」というタイトルからの意外性もあり、その歌いまわしに一気に耳を奪われる。全18曲、礒絵里子の持ち味といえる清潔な音色を活かした選曲で、プーランクやクライスラーでの洒落たセンスと、独露ものでのちょっと濃いめの歌心が、心地よく対比されていく。デビュー20周年記念アルバムで、あえて王道の小品集に挑んだ礒の面目躍如たるアルバム。若手実力派の實川風のピアノも絶妙な味わい。そして、CD最後の曲はチャイコフスキー「ワルツ・スケルツォ」。曲順のこだわりにも脱帽。(林 昌英)
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