eぶらあぼ 2017.11月号
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40©三浦興一楽壇生活40周年記念公演 店村眞積 ヴィオラ・リサイタル11/25(土)18:00 名古屋/宗次ホール(052-265-1718)11/29(水)19:00 東京文化会館(小)(カジモト・イープラス0570-06-9960)12/3(日)15:00 京都/青山音楽記念館 バロックザール(075-393-0011)店たなむら村眞まづみ積(ヴィオラ)第一人者が語るヴィオラへの愛とアンサンブルの喜び取材・文:林 昌英Interview 日本を代表するトップ奏者として、圧倒的な存在感でヴィオラ界を牽引し続ける店村眞積。ジュネーヴ国際コンクール第2位入賞と、フィレンツェ市立歌劇場管の首席奏者に就任した1977年以来、読響、N響を経て、現在は都響と京響で首席奏者を務め、今年楽壇生活40周年を迎えた。店村はキャリア開始当時を笑顔で回想する。 「勉強のためイタリアに行ったのは76年です。ヴァイオリンから完全に転向してヴィオラを勉強し直そうと決めたら、その一週間後にはイタリアに飛んでいました(笑)。以前聴いて素晴らしかったイタリア弦楽四重奏団のヴィオラ奏者、ピエロ・ファルッリに教わりたい! と決めて、本当にすぐにフィレンツェに行ったわけです。いま考えると無茶しました(笑)」 イタリアではファルッリの指導と歌劇場オーケストラのポストを得て、84年の帰国後は読響の首席に就任。すでに第一人者と目される存在だったが、実はその時期からしばらく、心の奥底では意外な悩みを抱えていたという。 「内心では“これが自分のヴィオラの音”という自信が掴めていなかったんです。時間をかけて迷いと向き合い、たくさんヴィオラの曲や室内楽を弾き、楽器に浸ることで変わっていきました。それで、いざヴィオラ弾きとして確信が持てて心底好きになると、最高に楽しいのがオーケストラ。アンサンブルの真ん中で引っ張って上下をコントロールする意識が出てくると、面白くて仕方ありません」 内面を見つめ、確信にたどり着いて得たものは「共演する喜び」。常に心にあるのは、合奏の楽しさとヴィオラへの愛である。 「ソロも醍醐味があって好きですが、ずっと自分の音だけだと物足りなくて。他の人と絡むと毎回違う音が必要になり、いろんなアイディアが出てくる。人と合わせた時のヴィオラはものすごく魅力的なんです」 今秋の40周年記念公演は、名古屋、東京、京都の順に3都市で開催され、シューマン「おとぎの絵本」、シューベルト「アルペジョーネ・ソナタ」、ショスタコーヴィチ「ヴィオラ・ソナタ」という名作が並ぶ。3曲とも思いは強く、ショスタコーヴィチのソナタは「ファルッリ先生が初版の譜面をくださり、数年後には先生の前で弾いて喜んでいただけた、特別な作品」とのこと。しかし、店村の「ヴィオラ弾きらしさ」は演目にも発揮されていた。 「ピアノの練木繁夫さんはとても信頼している方で、素晴らしい奏者です。曲は練木さんと相談して、最後は彼が特にやりたいという曲に決めました (笑)。もちろん全部大好きな曲ですが、それ以上に、一緒に演奏する人が喜んで弾いてくれる曲だったら、自分もやりやすいし、幸せなんです」 かつて「どんな演奏家になりたいか」という質問に、「“上手い”よりも“旨い”味のあるようなヴィオラ弾き」と話したという店村。最高の演目、最高の共演者と共に、40年熟成し続けてきたヴィオラの“旨味”を堪能させてくれる3公演となるだろう。津田真理 ピアノ・リサイタル ~ベートーヴェンの魂~円熟の時を迎え、ベートーヴェン後期3大ソナタと向き合う文:飯田有抄 JTアートホールアフィニスで、津田真理が3度目のリサイタルを行う。「内装の木目が美しく響きが柔らかい」と愛するこのホールで、2015年のラヴェル、16年のショパンに続き、今年彼女が取り上げる作曲家はベートーヴェンだ。ほとばしる情熱、明確に作品像を浮かび上がらせる冷静な構築力、そうした津田の芸術が、ベートーヴェンの最後の3つのソナタ第30番・31番・32番を描き出す。 桐朋学園、ザルツブルクのモーツァルテウム音楽院で学び、ハンス・ライグラフに師事、国内外のコンクールで優12/8(金)19:00 JTアートホール アフィニス問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 http://www.pacific-concert.co.jp/©Minako Ishida勝を飾り、帰国後は精力的にリサイタルやオーケストラとの共演に活躍してきた津田だが、大病を患い苦しんだ時期もあった。そして今、充実の時を迎えた津田が選ぶベートーヴェンの晩年のソナタは、ロマン的な表情の深みを増し、静かな光をたたえながら、濃密で立体的な書法に満ちている。豊かな津田のタッチで聴く初冬のベートーヴェンに、じっくりと耳を傾けたい。

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