eぶらあぼ 2017.11月号
37/203

34松本美和子プーランクの世界 モノオペラ《人間の声》 他11/25(土)14:00 Hakuju Hall問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp/松本美和子(ソプラノ)女性の心理をリアルに描くプーランクの傑作を演じる取材・文:岸 純信(オペラ研究家)Interview 別れを切り出した男に電話口で縋りつく女――恋にすべてを捧げる者なら、彼女の気持ちは痛いほど分るだろう。詩人コクトーの独り芝居をオペラ化した《人間の声》(1959)は、プーランクの人気作。世界的な名声を有するソプラノ松本美和子が、今回、改めてこの傑作に挑む。ピアノは椎野伸一が務める。 「《人間の声》は50分弱の小品ですが、一人で歌い続けるモノオペラですからそれは心理的に大変です。2011年に初めて歌った時、演出家の栗山昌良先生が、俳優さんが語るプロローグを付けて下さり、『ライフワークとして毎年歌えるよう修練を』と念押しされたので、素晴らしいピアニストの椎野さんと一緒に年々上演してきました。でも、毎回が本当に挑戦よ。生半可な気持ちでは出来ないの。感情がとても揺れ動くし、言葉数も多い…《ラ・ボエーム》のミミより100倍難しいかもしれません(笑)。ただ、プーランクが言葉の意味と抑揚に合わせて曲を付けていますから、イントネーションに慣れてくるとだんだん仕上がっていきますね」 確かに、男を引き留めようと女は必死なのだから、歌い手も並大抵のエネルギーでは表現出来ないだろう。 「そうね。コクトーの台本も見事です。彼は男性なのにここまで女の心理が分かるのは驚き。狂おしいほどの苦しさの中にいる主人公は憐れですよ。ただ、この女性は私自身とはちょっと違います。だから、練習中に思わず『貴女、そんなこと言ったらお終いでしょう!』と言いたくなったりね(笑)。でも、いざ本番となれば、オペラの中に私も入り込み、彼女の心で最後まで歌えてしまいます」 ローマに留学し、イタリアのみならずロンドンやウィーン、ミュンヘン、シカゴなど世界中で歌い続けてきた松本。《蝶々夫人》などイタリアものの当たり役が多いが、実はフランス・オペラも大切な柱である。 「1972年の歌劇場デビューもローマでの《カルメン》のミカエラでしたし、その前にアンダースタディを務めたのが《ファウスト》。フレーニ、ギャウロフ、ゲッダが勢揃いして指揮はプレートルだったのでなんとも贅沢な舞台でした。こうした名歌手たちの練習姿を間近で見て学びましたし、トリエステでA.クラウスと《真珠とり》をご一緒出来たのも良い想い出です。珍しいものでは、ロンドンでマイヤーベーアの《アフリカの女》にバンブリー、ボニソーリなどと出演しました。私の歌手人生は、素晴らしい人々との出会いで成り立っていると思います。11月のこの公演、前半ではプーランクの歌曲も歌います。ぜひお越し下さい」結成20周年記念 “饗シンポシオン宴”~メンバーによる協奏曲集~ Vol.3アンサンブル・ノマド 第61回 定期演奏会記念シリーズは個性際立つコンチェルトで文:江藤光紀 アンサンブル・ノマドは、楽器編成から奏法まで作曲家の様々な要望に自在に対応できるフレキシブルな団体として現代音楽界をリードしてきた。今年結成20年目を迎えるが、聴き手を楽しませる企画力も長きにわたる支持を勝ち得たその魅力の一つだ。 記念シーズンに彼らが贈るのは「“饗宴(シンポシオン)”~メンバーによる協奏曲集~」。シリーズ全4回を通じて腕っこきメンバーのそれぞれが独奏者となり、ゆかりの深い共演者たちのソロも加えてバラエティに富む曲目が並んだ。 11月23日、「拡散するクラシック音楽」11/23(木・祝)16:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 キーノート0422-44-1165http://www.ensemble-nomad.com/と題した“饗宴”第3回はメンバー3人による楽しいプログラム。菊地知也によるグルダの「チェロと吹奏楽のための協奏曲」(1980)はビッグバンドと古典派音楽が“同居する”人を食ったような音楽で、ノマドらしさが表れるだろう。団体設立者のギタリスト佐藤紀雄は自在なセンスで現代音楽の領域を拡張する中川統雄(のりお)の「機関幽世(からくりかくりよ)コンチェルト」(2016)で登場。佐藤洋嗣がスター作曲家・藤倉大の「コントラバス協奏曲」(2010)で締める。

元のページ  ../index.html#37

このブックを見る