eぶらあぼ 2017.11月号
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21NYとアムステルダムの伝統を融合したマーラーをお聴かせします取材・文:大塚正昭(編集部) 2018年3月にニューヨーク・フィルハーモニック(NYフィル)が次期(2018/19シーズン)音楽監督のヤープ・ヴァン・ズヴェーデンに率いられて来日する。数々の著名指揮者が候補にあがった中で“ダークホース”と目されていた彼の就任が発表された際には、音楽界に衝撃が走った。 ロイヤル・コンセルトヘボウ管のコンサートマスターから指揮者に転向し、オランダ放送フィルの首席指揮者やダラス響などの音楽監督を経て、現在は香港フィルの芸術監督を務めている。着実に指揮者としてのキャリアを積み重ねてきたズヴェーデンにとって、このポストが大きなステップになることは確実だろう。 「NYフィルの次期音楽監督就任が決定したときは、非常にうれしく思いました。10代後半の頃、ジュリアード音楽院に在籍していたときには、毎週のようにNYフィルの演奏会に通っていましたので、ある意味NYフィルとは長い付き合いになります。初めて指揮したのは約3年ほど前。まずは1週間一緒に過ごし、その1年後に2週間指揮する機会をいただき、その後に音楽監督への打診がありました」 初めてNYフィルを指揮して感じたこととは「バーンスタインのDNAを感じるサウンド」だったという。 「曲はマーラーだったのですが、バーンスタインは長いあいだNYフィルの音楽監督でしたので、その足跡がまだ残っていました。私には彼の指揮によるコンセルトヘボウ管で培ってきた自分なりの“マーラー像”があるのですが、現在のNYフィルのそれはバーンスタイン時代のものと私自身の“マーラー像”の中間にあるような感じでした。NYフィルは彼の後にもたくさんの指揮者のもとでマーラーを演奏しているので、彼の指示がそのまま残っているわけではありません。常に変化し続けているのです。私はそこに私独自の解釈を追加していったのですが、団員はその解釈をオープンに受け入れてくれました」 指揮者になるきっかけとなったのもバーンスタインだった。 「コンセルトヘボウ管とのツアーでベルリンに行ったときのことです。ホールが改修後だったので、マエストロが音を聴きたいと言って、いきなりマーラー1番の指揮を任されました。指揮の経験がゼロだからといって断ったのですが、とにかくやってみなさいというので、仕方なく指揮しました。そして『君は良いヴァイオリニストだがもっと良い指揮者になれるだろう』と言ってくれたのです。指揮という行為自体がパワフルなフィーリングだったのを覚えています。2〜3年勉強し、指揮者へなることを決意し、1995年にはヴァイオリンを置いて指揮に専念することにしました」 理想的な指揮者像はあるのだろうか。 「やはりバーンスタインが一番近いですね。的確な指示はもちろんのこと、なによりも彼の何も恐れない自由さ、オープンさに深く感銘を受けました。アーノンクールも素晴らしかったです。バッハとモーツァルトの演奏に特にインスピレーションを感じました」 ヴァイオリンを弾かなくなって寂しいことは「まったくない」と断言する。 「ヴァイオリニストには毎日接していますので、まるで自分で弾いているような感じがするのです。ヴァイオリニストとしての技量をキープするには1日何時間もの練習が必要ですから指揮との両立は不可能です」 多少時期尚早だが、今後のNYフィルのプログラミングについても訊いてみた。 「プログラムとは、私は素晴らしいレストランのメニューのようなものと考えています。一つのスタイルに偏らないようにバランスをとることが大事です。世界のトップレベルの楽団はカメレオンのように、バッハ、マーラー、現代ものまであらゆるスタイルに精通し、質の高い演奏をしなければなりません。私はそれをNYフィルで実現したいのです。そして委嘱を含めた新作初演なども非常に重要だと考えています」 3月の日本ツアーでは、ピアノのユジャ・ワン、ヴァイオリンの五嶋龍と共演する。 「ブラームスのピアノ協奏曲第1番、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲をこの2人の素晴らしいソリストと演奏します。ツアーにはその2曲にストラヴィンスキー『春の祭典』、マーラー交響曲第5番を組み合わせます。NYとアムステルダムの伝統を融合したマーラーをお聴かせできるはずです。ぜひご期待ください!」Prole19歳でコンセルトヘボウ管の史上最年少コンサートマスターとなり、1995年に指揮者に転身。2008年から務めたダラス響の音楽監督としての功績で12年には『ミュージカル・アメリカ』誌のコンダクター・オブ・ザ・イヤーに選出。同年からは香港フィルの音楽監督も務め、18/19年シーズンからニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督に就任する。客演も多く、フィラデルフィア管、ボストン響、ロンドン響、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルなどを指揮し、昨シーズンはロイヤル・コンセルトヘボウ管、シカゴ響、クリーヴランド管、パリ管などの指揮台に立った。録音にも力を入れ、多くの受賞歴がある。

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