eぶらあぼ 2017.10月号
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78名倉誠人 マリンバ・リサイタル2017 現代によみがえる古典11/4(土)16:00 神戸新聞松方ホール(078-362-7191)11/6(月)18:45 名古屋/宗次ホール(052-265-1718)11/9(木)19:00 東京文化会館(小)(ムジカキアラ03-6431-8186)http://www.makotonakura.com/名なくら倉誠まこと人(マリンバ)バッハ、現代曲、日本の芸術が時空を超えて交差する取材・文:東端哲也Interview ニューヨークを拠点に世界中で演奏活動を展開し、マリンバの新しい地平を切り拓いてきた名倉誠人。今年11月に神戸、名古屋、東京の3都市で開催する「現代によみがえる古典」と題されたリサイタルがすでに話題を呼んでいる。 “古典”とは先ず、彼の演奏家としてのキャリアの2本柱のひとつであるJ.S.バッハの音楽のこと。今回のリサイタルでも、自ら編曲した名コラール「キリストは甦りたまえり」などを披露。多くの人の心を掴むことだろう。 「偉大なバッハの音楽は、その作品が元々書かれた楽器以外で演奏したとしても揺るぎない、高貴で堅固な世界を持っています。演奏ではむしろ、マリンバによる“編曲”の魅力ではなく、バッハそのものの素晴らしさを伝えたい」 もう一方の柱とはマリンバという歴史的には浅い楽器の特性を強みに、新しいオリジナル作品を求めること。これまでにも各国の優れた現代作曲家たちとコラボを繰り広げてきた彼が、3人に委嘱した3作品を披露する。 「フランス印象派に心を預けたようなベンジャミン・ボイルの作品は和音が精妙でとても色彩豊か。昨年に日本初演したマリンバ協奏曲も素晴らしかったのですが、今回も『キリストは甦りたまえり』と、彼にこのコラールを基に書いてもらった変奏曲(世界初演)とを並べて聴いてもらう面白い趣向ですので、ご期待下さい」 デイヴィッド・ショーバー作品のテーマは、清少納言の「枕草子」をモティーフにした“日本の四季”。こちらも日英2ヵ国語で朗読(北村千絵)の後に、ヴァイブラフォーン(ヴィブラフォン)とフルート(前田綾子)による演奏が続くという何ともアメイジングな構成だ。 「数年前、ニューヨークのスーパーマーケットで偶然再会した彼に近況を訊ねたら、ギターとフルートのために『枕草子』を基に“春”と“冬”の曲を書いたと言うので、それじゃあギターをヴァイブラフォーンに換えて“四季”を完成させてよってお願いしたんです(笑)。日本の“古典文学”が外国人の目を通して現代によみがえる瞬間をお聴き逃しなく」 更には、バッハとレーン・ハーダーの「前奏曲とフーガ」を並置して比較を楽しむ趣向も。 「ハーダー作品は『変ホ短調』(2012年)と『変ニ長調』(16年)2曲を演奏。それぞれバーバー風、ショスタコーヴィチ風と、フーガのタイプは違いますが、どちらも超絶技巧の曲。『変ホ短調』は共同委嘱なのに他のマリンバ奏者の人たちは弾きたがらない(笑)」 なお神戸公演では、歌川広重と伊藤若冲に捧げた中村典子による大編成の作品(9人の打楽器奏者が参加)も披露。音楽・文学・絵画という3つの“古典”を制覇したい方はぜひこちらに。前橋汀子カルテット ベートーヴェンの傑作を弾く円熟味あふれるアンサンブルで描くベートーヴェンの深奥文:林 昌英 わが国の代表的なヴァイオリニストとして長く第一線で活躍し、今年演奏活動55周年を迎えた前橋汀子。ますます意欲的な活動を繰り広げる前橋が、室内楽の世界を深く追求するべく、初めて結成した弦楽四重奏団が「前橋汀子カルテット」である。第2ヴァイオリンに久保田巧、ヴィオラに川本嘉子、チェロに原田禎夫と、豪華かつ室内楽経験豊かな頼もしい名手たちがそろい、2014年の初公演以来大きな話題を呼び、定期的に活動を続けている。 今回の公演は、中心レパートリーに据えるベートーヴェンから、暗い情熱と10/3(火)19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700http://www.hakujuhall.jp/古典的な構成を併せもつ第4番、その名の通り緊密で厳しい佇まいの第11番「セリオーソ」、そして作曲者晩年の独特の軽みと深遠さを感じさせる最後の第16番の3曲。初期・中期・後期から1曲ずつ、大規模作品をあえて外した選曲は、カルテットとしての成熟度が問われるプログラムでもあり、彼らの意欲と自信のほどが伝わってくる。前橋たちが挑むベートーヴェンの深奥を見届けたい。

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