eぶらあぼ 2017.10月号
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52田中彩子(ソプラノ)コロラトゥーラで魅せる癒やしと華やぎの名曲取材・文:東端哲也Interview 10代で日本を飛び出し、驚異的な歌唱テクニックを身に付け、一般的なソプラノ歌手よりも遙かに高い音域を持つ“稀代のハイ・コロラトゥーラ”として、欧州で華やかにキャリアを重ねている田中彩子。待望のセカンド・アルバムは、彼女にとって第2の故郷ともいえる「音楽の都ウィーン」に因んだ名曲たちを集めた一枚だ。 「ウィーンに暮らして今年でもう16年目。こぢんまりとした街中を歩けば、いたるところに音楽家たちの面影がそのまま残っています。例えばマーラーが好きだったタルトがあるカフェで寛いでいると、神様のように遠い存在だと思っていた偉大なる作曲家のことを、同じ“人”として身近に感じられたりするのが素敵です」 アルバムは“ワルツ王”J.シュトラウスⅡによる“3大”「ウィンナ・ワルツ」(弦楽四重奏による伴奏)で幕開け。 「ニューイヤー・コンサートなどオーケストラだけの演奏でもお馴染みの楽曲ですが、今回はコロラトゥーラ・ソプラノのために書かれた楽譜を再現しました。同じコロラトゥーラでもイタリア・オペラとは違う、ふんわりと軽くて、おおらかでどこかのんびりとした雰囲気がウィーン風。白黒はっきりとしない言葉の表現も、私が生まれた京都に似たところがあるかもしれません(笑)。また日本人メンバーによる演奏も素晴らしくて、向こうの友人に聴かせたら、これウィーンのオーケストラでしょ? と、言われたのが嬉しかったですね」モーツァルトや「3大子守歌」も収録 晩年の10年をウィーンで過ごし、傑作オペラの数々を残したモーツァルトの作品からはピアノ伴奏で、難曲で知られる「ハ短調ミサ曲」のアリア風ソプラノ独唱や2つのモテットを披露。こちらも魅せる。 「モーツァルトの宗教曲はあくまで厳かに、技巧を凝らしてもオペラのようにエモーショナルにならないように気をつけました。レコーディングをしたサラマンカホールを教会だと思って歌いました」 フリース(伝モーツァルト)にシューベルト、ブラームスと繋がる、ドイツ語による「3大子守歌」も聴きどころ。 「ある時、知人の若いお母さんがシューベルトの書いた『schlafe, schlafe(眠れ~眠れ~)』のフレーズそのままに赤ちゃんを寝かしつけているのを見て、ウィーンの子どもは実際にあの歌を聴いて大きくなるんだって目から鱗が落ち、曲に対する考え方も変わりました。レガート歌唱ではなく、手に抱いた幼子を優しく揺らすようなイメージで歌うよう意識するようになりました」 最後をウィーンではなくザルツブルクが舞台のブロードウェイ・ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』のテーマで締める。〈エーデルワイス〉が日本語歌唱で収録されているのも嬉しい。 「『サウンド・オブ・ミュージック』は現地の人よりも外国人に人気が高い。昨年の日本ツアーでも〈エーデルワイス〉を歌うと会場が和むのを感じました」 今年も9月~10月にかけて全国7都市(東京公演は10/12)で公演。本アルバムの曲を中心に、レコーディングにも参加した加藤昌則のピアノ伴奏で歌う。 「トークも交えてお客さんの緊張をほぐして楽しいステージにしたい。大好きなウィーンの風をお裾分けできたらと思います」田中彩子 ソプラノ・リサイタル 201710/12(木)19:00 紀尾井ホール問 キョードー東京0570-550-799※全国公演の詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。http://j-two.co.jp/ayakotanaka/CD『ウィーンの調べ~華麗なるコロラトゥーラ2~/田中彩子』エイベックス・クラシックスAVCL-25942¥3000+税9/20(水)発売

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