eぶらあぼ 2017.10月号
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212CDCDCDベートーヴェン・リサイタル~「月光」「熱情」「告別」/エフゲニー・キーシンヒロイズムⅡ 愛のささやき/坂下忠弘モーツァルト:フルート協奏曲集/カール=ハインツ・シュッツベートーヴェン:ソナタ第3番、創作主題による32の変奏曲、ソナタ第14番「月光」、同第23番「熱情」、同第26番「告別」、同第32番エフゲニー・キーシン(ピアノ)モリコーネ:愛のテーマ ―映画「ニュー・シネマ・パラダイス」より/ラヴェル:5つのギリシャ民謡 ―向こうの教会へ/ピアソラ:オブリビオン/ルグラン:愛のささやき/武満 徹:明日ハ晴レカナ曇リカナ 他坂下忠弘(バリトン)江澤隆行(ピアノ)モーツァルト:フルート協奏曲第1番・第2番、フルートと管弦楽のためのアンダンテカール=ハインツ・シュッツ(フルート)オルケストラ・ダ・カメラ・ディ・ペルージャ収録:2006年2月、ウィーン(ライヴ) 他ユニバーサルミュージックUCCG-1772/3(2枚組) ¥3500+税オクタヴィア・レコードOVCL-00639 ¥3000+税カメラータ・トウキョウCMCD-28353 ¥2800+税キーシンのDG復帰第一弾は過去10年にわたるベートーヴェンのライヴ演奏からのセレクション。巨大な掌が作曲家の情念と共鳴し、破壊力満点の音楽を生み出す。事の成り行きを固唾を飲んで見守る会場の緊張感は、さらなるパワーと迫力になって演奏に注ぎ込む。欧米に韓国と会場も様々だが、レジェンダリーな演奏が生まれるメカニズムは万国共通だ。この現象が最もヴィヴィッドに現れているのは「熱情」のラストの容赦なき追い込みだが、厳しさが自由へと開放されていく32番や、スケールの大きな創作主題による変奏曲、生気に満ちた初期のソナタなど、どれも曲を深く掴み円熟というにふさわしい。(江藤光紀)尾崎亜美プロデュースの声楽ユニットでも歌うなど、クロスオーバーに活動するバリトン坂下忠弘のセカンド・アルバム。題名のとおり、耳もとで愛をささやくような優しい歌。実際、その弱声は美しい。副題に「ヒロイズム」とあるものの、選曲からして勇ましい英雄のイメージはなく、これは本人の名前に由来した、「すべて坂下忠弘色の…」の意味とのこと。まさにその言葉どおりの歌いぶりだが、強引にオペラ的な歌い回しに引き寄せることはいっさいなく、実に自然な歌を楽しめる。本人の志向はフランス音楽に向いているようで、大半がフランスの、あるいはフランス語の作品。 (宮本 明)なんと自然で美しいのだろう。ウィーン・フィル首席フルート奏者のシュッツが、相性抜群のオケと出会い、幸福なモーツァルトのアルバムができあがった。シュッツのどこまでものびやかで無理のないフレージング、完璧な技巧、清冽な音色が冴えわたる。ペルージャの室内オケも高い機能性と古都の懐かしい音を併せ持ち、トップクラスの実力を発揮。ソロもオケも互いに全幅の信頼をおき、あたかも室内楽のようにあらゆる楽器が楽しく絡み合う。表現に誇張は一切ないが、シュッツの華のある音から、自ずとフルートの魅力もあふれてくる。協業型の協奏曲の理想的な姿がここにある。 (林 昌英)CD空騒ぎ ~花岡千春 愛奏曲を集めてコルンゴルト:シェイクスピアの劇音楽「空騒ぎ」からの3つの小品/F.クープラン:修道女モニク/シューマン:ロマンス第2番/セヴラック:ロマンティックなワルツ/信長貴富:前奏曲/坂本龍一:エナジー・フロー 他花岡千春(ピアノ)ベルウッド・レコードBZCS 3093 ¥2870+税なんと瀟洒なアルバムだろう。東京芸大、パリ、イタリアで学び、演奏会のほか放送メディアでも活躍する花岡千春が愛奏曲を集めたというアルバム『空騒ぎ』。コルンゴルトのシェイクスピア劇音楽「空騒ぎ」に始まり、クープランやラモーのバロック作品、メンデルスゾーンとシューマンのドイツ・ロマン派、そしてフォーレからセヴラックにいたるフランス音楽、さらに木下牧子、信長貴富、坂本龍一といった日本勢の、美しくもユーモラスで、人間らしい温度の伝わる小品の演奏。板倉須美子の絵画が飾るジャケットそのままに、詩的で楽しく、どこか切ない気分にも浸れる一枚だ。 (飯田有抄)

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