eぶらあぼ 2017.9月号
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58夏目漱石生誕150年記念 東京文化会館 ジャパン・ソサエティー(NY)国際共同制作長田 原:オペラ《Four Nights of Dream》(新演出・日本初演)漱石の人気小説『夢十夜』がオペラに文:宮本 明9/30(土)、10/1(日)各日15:00 東京文化会館(小)問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 http://www.t-bunka.jp/ 今秋、東京文化会館では夏目漱石の生誕150年を記念した3本の音楽企画を用意している。その幕開けを飾るのが、1990年代後半から米国と北欧を中心に作品を発表しているニューヨーク在住の作曲家・長田原(おさだ・もと)のオペラ《Four Nights of Dream》(全4場)日本初演。漱石の短編幻想小説集『夢十夜』の中の4編(第二、第十、第三、第一夜)を原作とするオムニバス形式の作品で、英語による台本は長田自身が手がけた。 2008年にスウェーデンで初演された本作は長田のオペラ2作目で、音楽的特徴として、本人が「オペラの伝統へのオマージュとパロディ」を筆頭に挙げており、その響きは古典的な機能和声によってはいないが調性感を失うこともない。聴き手は20世紀前半の新古典主義を思い起こすかもしれない。登場する6人の歌手は、米国でのオーディションで選ばれた海外の若手実力派たち。各一人ずつの弦5部と木管5重奏に、打楽器、ピアノを加えたオーケストラには、東京音楽コンクール歴代上位入賞者が顔を揃える。指揮はクルト・マズアを父に持つ謙=デーヴィッド・マズア。日本の演劇界とも関わりの深いアレック・ダフィーの演出と、今年のトニー賞ミュージカル装置デザイン賞に輝いた俊英ミミ・リエンの美術により、東京文化会館小ホールの独特の空間を生かしたクールな舞台が生まれそうだ。チームは全員、米国公演を経て上野に乗り込むので、万全の仕上がりが期待できる。アレック・ダフィー『Double Exposure ダブル・エクスポージャー』社会的なテーマをダンスとコンテンポラリー・サーカスで描く文:乗越たかお9/22(金)~9/24(日) あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)問 あうるすぽっと03-5391-0751 http://www.owlspot.jp/ 日本での知名度はまださほど高くはないが、この2組はすごい顔合わせだ。韓国とフィンランド、それもコンテンポラリーなダンスとサーカスのコラボレーションである。しかもテーマが韓国社会(だけではないが)に深く根ざしている整形美容だというのだから、かなり挑戦的だ。 韓国側の演出・振付のアン・ソンスはアメリカのジュリアード音楽院で学び、世界中で数々の賞を獲得している。昨年は韓国国立コンテンポラリー・ダンス・カンパニー(国立はアジアで唯一)の芸術監督に抜擢された、まさに“時の人”である。おまけに横浜ダンスコレクションなどでもファンが多いキム・ボラム他が出演する。長身でユーモラスな動きから、ハイスキルを駆使したダンスまで、能力の高さは折り紙付きだ。 フィンランド側の演出はヴィッレ・ヴァロ。最先端の舞台芸術であるコンテンポラリー・サーカスの世界で、フィンランドは国立サーカス学校があるほどの先進国である。中でもヴァロが共同芸術監督を務めるWHSは、サーカスとはいえ映像などの美術を駆使した極めてアーティスティックな舞台で名高い。 この両者が組んだタイトルは写真用語で「二重露光」、つまり二つの画像を一枚に焼き付けることを意味する。整形手術で、作り物と知りつつも美しさを求めずにはいられない人々。手術はエスカレートし、完全な満足は得られることなく新しい顔ばかりが生み出されていく。虚像が実像を凌駕するとき、真実はどこにあるのだろう? 変身願望は誰しも抱く。「禁断の扉の向こう側」を垣間見られる舞台を見てみよう。©Sasa Tkalcan謙=デーヴィッド・マズア夏目漱石長田 原
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