eぶらあぼ 2017.9月号
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54ヤツェク・カスプシク(指揮) 読売日本交響楽団激動の時代が生んだ傑作に名匠たちが対峙文:飯尾洋一第571回 定期演奏会9/6(水)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jp/ 「ヴァインベルクの音楽の価値は明らかだ。彼の音楽を発見したことで、私は尽きることのないインスピレーションの源を得た」。世界最高峰のヴァイオリニスト、ギドン・クレーメルは、ポーランド生まれのソ連の作曲家ヴァインベルクについてこう語っている。 そのクレーメルが読響との31年ぶりの共演にあたって、日本初演を担うのがヴァインベルクのヴァイオリン協奏曲ト短調である。作曲は1959年。近年のクレーメルは、生前ほとんど国外で知られることのなかったヴァインベルク作品の伝道師のような活躍ぶりを見せている。指揮を務めるのはポーランドの名匠、ヤツェク・カスプシク。母国を同じくするヴァインベルクに共感を寄せる。 ヴァインベルクはショスタコーヴィチと親交を結び、また彼に多大な影響を受けていた。このヴァイオリン協奏曲からも、その影響の強さは伝わってくるはずである。となれば、ヴァインベルク作品と組み合わせるべき作品として、ショスタコーヴィチの問題作、交響曲第4番ほどふさわしい作品もない。その先鋭さゆえに当局からの弾圧を恐れて初演が見送られた作品である。 ともに激動のソ連において時代に翻弄されながら創作活動を続けた作曲家、ヴァインベルクとショスタコーヴィチ。クレーメルとカスプシクというふさわしい才能を得た読響が、作品に込められたひりひりとするような時代の空気を伝えてくれることだろう。ギドン・クレーメル高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団團 伊玖磨:オペラ《夕鶴》(演奏会形式)記念すべき日におくる日本のオペラの最高峰文:室田尚子第50回 ティアラこうとう定期演奏会9/30(土)14:00 ティアラこうとう問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ 2005年4月から始まった東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のティアラこうとう定期演奏会は、この9月に50回目を迎える。記念すべき節目の演奏会のために常任指揮者の高関健が選んだのは、1952年の初演以来、国内外で800回以上の上演回数を誇る團伊玖磨作曲のオペラ《夕鶴》の全曲上演。日本人なら多くの人が知っているであろう「鶴の恩返し」の物語をもとに木下順二が戯曲を書き、それを團がオペラ化したこの作品は、わかりやすいストーリー、美しい日本語、そして格調高い音楽が一体となった日本語オペラの傑作だ。 今回は演奏会形式で上演されるが、これは、オーケストラの演奏する音楽がしっかりと聴こえてくるという利点がある。愛に生きる「つうの主題」、心優しいけれど危うさを感じさせる「与ひょうの主題」、そして二人の関係に忍び寄る「物欲の主題」など、登場人物それぞれの心情を表現する様々な主題をじっくりと味わいたい。 歌手陣は、新国立劇場での《夕鶴》上演における常連メンバーともいえる4人が登場。つうの腰越満美は、その美しい声と圧倒的な表現力で2016年の新国立劇場での公演でも絶賛されている。与ひょうの小原啓楼、運ずの谷友博、惣どの峰茂樹も同じく、各役を得意とするメンバー。ちなみに高関健は、11年に新国立劇場の公演でタクトを執っている。 理想的なキャストを得て、東京シティ・フィルが奏でる「日本の美」の世界を存分に堪能したい。ヤツェク・カスプシク左より:高関 健 ©Masahide Sato/腰越満美/小原啓楼/谷 友博/峰 茂樹
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