eぶらあぼ 2017.9月号
48/181
45ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団ウィーン古典派2大巨匠への興味が深まる好企画文:江藤光紀第100回 東京オペラシティシリーズ10/15(日)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp/ 東京交響楽団の東京オペラシティシリーズが10月で第100回を迎えるが、このシリーズは選曲がひとひねり利いている。意表を突くコンビネーションでも、聴いてみるとなるほど、とオチがつくのが愉しい。記念回を振るのは音楽監督のジョナサン・ノット。今一番熱いコンビのひとつだ。 今回はハイドンとモーツァルト。ハイドンの交響曲第86番はパリの新設オーケストラのために書き下ろされた、いわゆる「パリ交響曲」中の1曲だ。このシリーズには「めんどり」とか「熊」とか、ユニークなタイトルを持つ曲が多いが、86番はとりわけ規模が大きく洗練されており、すっきりと耳に入ってくる。後半はモーツァルトの交響曲第39番。後期三大交響曲の幕開けを告げる荘重な和音で始まり、優美で力強い主部へと進む堂々とした交響曲だ。 間に挟まれるのはハイドンのチェロ協奏曲第1番で、ソロはイェンス=ペーター・マインツ。難関ミュンヘン国際コンクールに優勝した後、1995年よりベルリン・ドイツ響の首席を9年間務めた。ドイツを代表する中堅チェリストで、東響とは2013年にプロコフィエフで共演済み。好評を受けての再登場となる。 さてこのプログラム、曲の相性がいいのは勿論だが、86番(1786年)と39番(1788年)はほぼ同時代の曲で、チェロ協奏曲はハイドン30代前半の、そして39番はモーツァルト32歳の作。つまり交響曲で二人が同じ時期にどこまで到達していたのか、そして同じくらいの年齢でどういう曲を書いていたのかが比較可能なのだ。スタンダードなプロでもきっちり筋を通しているところが、知性派ノットらしいではないか。ジョナサン・ノット ©中村風詩人ルイ・ラングレ(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団愛と悦びに充ちた陶酔の幕開け文:柴田克彦第578回 定期演奏会 トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉9/22(金)19:00、9/23(土・祝)14:00 すみだトリフォニーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 http://www.njp.or.jp/ これは“愛”と“悦楽”のプログラムだ。上岡敏之が音楽監督に就任して9月から2シーズン目を迎え、日本の常識に囚われない選曲と構成がますます際立つ新日本フィルの定期演奏会。ルイ・ラングレが振るトリフォニー定期〈トパーズ〉では、シーズンの最初からその妙味が発揮される。 三角関係の悲劇を描いたシラーの戯曲に基づくシューマンの序曲「メッシーナの花嫁」(生演奏は貴重!)、マラルメの官能的な詩に拠るドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、神秘主義によって恍惚の世界を描いたスクリャービンの「法悦の詩」が並ぶ全体の構成が、“愛と悦楽”そのもの。前半に置かれたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も甘美なテイストが同列のラインを形成する。さらには、前半=ドイツ前期ロマン派の濃密な響き、後半=フレーズが浮遊する近代の夢幻的な響きの対比も妙味十分だ。 1961年フランス生まれのラングレは、2002年からモーストリー・モーツァルト・フェスティバル、13年からシンシナティ響の音楽監督を務め、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ロンドン響、パリ管、スカラ座、ロイヤル・オペラ等に客演している実力者。楽曲を引き締めながら生気をもたらす彼が、初共演の新日本フィルからいかなる音楽を引き出すか? 大いに注目したい。またメンデルスゾーンのソリストは、豊かな響きと卓越した技巧に定評がある竹澤恭子。アメリカからパリに移って以来、表現に幅を加えている彼女の“メンコン”も、フランス繋がりのコラボと相まって期待値が高い。 すべてに陶酔感が漂う、魅惑のシーズン幕開けだ。ルイ・ラングレ ©Benoit Lineroイェンス=ペーター・マインツ ©Mat Hennek竹澤恭子 ©Tetsuro Takai
元のページ
../index.html#48