eぶらあぼ 2017.9月号
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36アレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団巨匠ならではのエキサイティングな体験文:林 昌英第694回 東京定期演奏会 ラザレフが刻むロシアの魂 Season Ⅳ グラズノフ310/27(金)19:00、10/28(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/ 今秋、猛将アレクサンドル・ラザレフが日本フィルに帰ってくる。首席指揮者時代から日本フィルを鍛え上げ、ライヴではその能力を限界まで引き出した白熱の演奏を重ね、桂冠指揮者となってからも定期的に登壇を続けている。 10月の東京定期演奏会は「ラザレフが刻むロシアの魂」シリーズで、彼が絶賛を惜しまないグラズノフの3回目。師弟作曲家による対照的な交響曲がカップリングされる。 前半は、グラズノフの交響曲第4番。哀感に満ちた冒頭の旋律から喜びが爆発するフィナーレまで、西欧的で品の良い作曲技法ながら、ロシアの自然や風景が浮かんでくるような名品。後半は、グラズノフが教鞭を執ったレニングラード音楽院での教え子であるショスタコーヴィチが、音楽院卒業作品として作曲した交響曲第1番。現代的な音響、斬新な技法にあふれ、10代最後(!)の才気ほとばしる傑作だ。ラザレフと日本フィルのショスタコーヴィチは格別で、毎回作品の本質を抉り出す凄絶な名演を実現してきた。本公演では2曲の関係性も含め、どんな体験ができるのか、楽しみでならない。 筆者はラザレフのリハーサルを見学する機会があったが、「1秒も無駄にしない」は誇張ではない。時計が終了時刻に変わる瞬間まで猛烈なテンションで練習を続け、隅々まで緻密かつ徹底的に磨き上げる様は圧巻。真摯で厳しいリハーサルを重ねる同コンビの演奏会は毎回が一大イベントとなるが、彼らの熱いロシア音楽を堪能できるとなれば、今回も間違いなく必聴の公演である。アレクサンドル・ラザレフ ©山口 敦ペーター・ダイクストラ(指揮) スウェーデン放送合唱団最高峰のアカペラ芸術に浸る文:宮本 明9/14(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 http://www.operacity.jp/ もう長いこと恒例となっている、東京オペラシティでのスウェーデン放送合唱団の来日公演。世界最高峰の合唱団が頻繁に来日してその力を見せつけてくれるのは至福の喜びだ。指揮は前回と同じく、1978年オランダ生まれの首席指揮者ペーター・ダイクストラ。 今回は、20世紀の北欧と東欧の無伴奏作品を集めたプログラムを携えてやってくる。ペルト(エストニア)の「勝利の後」(1996/98)、サンドストレム(スウェーデン)の「新しい天と新しい地」(1980)、ペンデレツキ(ポーランド)の「ベネディクトゥス」(1993)と「アニュス・デイ」(1981)、ヴィカンデル(スウェーデン)の「すずらんの王様」(1920/46改)、そしてシュニトケ(ロシア)の「無伴奏合唱のための協奏曲」(1984~85)。 一番の聴きどころはやはりシュニトケだろう。中世アルメニアの詩人グレゴリー・ナレカツィの『嘆きの歌の書』から取られたロシア語テキストによる約40分の大曲。スウェーデン放送合唱団には前首席指揮者のトヌ・カリユステと演奏した同曲の録音もあって、凄みすら感じさせるパフォーマンスは圧巻で言葉を失ってしまう(指揮のダイクストラにも、バイエルン放送合唱団との録音がある)。40年以上前のレコードに、「この上に何をお望みですか?」という、オールド・ファンには語り草の秀逸なコピーがあったが、まさにその言葉を彼らに贈りたい。合唱ファン必聴の一夜。スウェーデン放送合唱団 Photo:Kristian Pohlペーター・ダイクストラ ©Astrid Ackermann

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