eぶらあぼ 2017.9月号
26/181
23シュテファン・ドールStefan Dohr/ホルン、アンサンブル・ウィーン=ベルリン多彩なプログラムでベストの音楽をお聴かせします取材・文:柴田克彦 写真:武藤 章 ベルリン・フィルの首席奏者およびソリストとして活躍するホルンの名手シュテファン・ドール。来日も多い中、今秋特に期待されるのは「アンサンブル・ウィーン=ベルリン」のツアーだ。同グループは、1983年にウィーン・フィルとベルリン・フィルの首席奏者によって結成された木管五重奏のドリーム・チーム。2013年、ドールのほか、フルートのシュッツ(ウィーン・フィル)、オーボエのケリー(ベルリン・フィル)、クラリネットのA.オッテンザマー(ベルリン・フィル)、ファゴットのガラー(ウィーン響)によって新たに船出した。その中にあって彼は、1999年から参加している古参メンバーである。 「新メンバーは、時間をかけながら自然に決まりました。でも、ウィーンとベルリンから集まって五重奏をする形、コミュニケーションの取り方や民主主義的なリハーサル方法などは全く変わっていません。それに我々は、一緒に音楽作りをするのが大好きで、仲のよい友だちでもあります」 2015年に新メンバー(ケリーは家族の病気のために不参加)による日本ツアーを行ったが、以前と変わらぬ卓越した技量に新たな感性を加えた、生気溢れる演奏が印象的だった。 「メンバーの質は非常に高いと思います。個々もアンサンブルも音色が極めて多様で、今その幅をさらに広げようとしています。もう1つ、五重奏で重要なのはバランス。この“音色”と“バランス”をキーワードに、5人の優秀な演奏家が作るベストの音楽を聴いていただくことを常に考えています」 今回のプログラムは実に多彩。 「皆がアイディアを持ち寄って、演奏したいと思う曲を選びました。ベートーヴェンの木管八重奏曲の弦楽五重奏版のさらなる編曲や、“フランスのベートーヴェン”と呼ばれたオンスロウによる古典派の五重奏曲も、ツェムリンスキー、リゲティ、ベリオといった近現代ものもあります。後者は日本ツアーに合わせてCDをリリースする予定ですが、ぜひライヴでも聴いてほしいですね。またバルトークの『ルーマニア民俗舞曲』、ドビュッシーの『子供の領分』など、現メンバー独自のレパートリーも含んでいます。さらにはドビュッシーとフランセのフランス作品、ロータ、ブリッチャルディ、レスピーギ、ベリオのイタリア作品のコンビネーションも聴きどころです」 会場ごとに組み合わせは異なるが、特筆すべきは、リゲティの「6つのバガテル」と、全公演で演奏されるベリオの「オーパス・ナンバー・ズー」。後者は動物をタイトルにした4曲からなる興味深い作品だ。 「リゲティの曲は、非常に崇高ながらリズムが明確な舞曲で、とても面白い作品です。ベリオの曲は、奏者全員がナレーションと演技をするユーモラスでラヴリーな作品。初期の作ですから音楽は古典的で、綺麗な和音が普通に出てきますし、奏者の声も含めた多彩な音色を楽しんでいただけます」 また、5人がそれぞれの協奏曲を演奏する「スーパー・ソリスト meets 新日本フィル」も要注目。前回の同公演はモーツァルト特集だったが、今回は「色々な作曲家を取り上げて、異なる音色を味わってもらう」プログラムだ。 「R.シュトラウスの2つの協奏曲は、小さめの編成で書かれており、室内楽的な音楽やオーケストラの楽器とのやりとりが妙味。これにウェーバー、C.シュターミッツ、ニールセンが加わりますので、オーケストラは20分ごとにガラリと音色を変えないといけない。そこも興味深いところですね」 彼自身は、R.シュトラウスの協奏曲第2番を披露する。 「ホルンの協奏曲の中で最も大変な作品です。スタミナと力、そして柔軟性が必要であり、20分間に奏者の力量の全てを出し切らなければいけません。シュトラウス19歳時の第1番に比べて、78歳時の第2番では、ホルンが技術的に踏み込んだ使い方がなされていますし、第3楽章のリズムなどはオーケストラも凄く難しい。でも音楽はロマンティックで美しく、演奏するのが大好きな曲です」 本公演は、創設メンバーだったシェレンベルガーの指揮も心強い。 ホルンは「現代音楽であってもロマンティックな面を感じさせるのが魅力」と語るドール。今秋も豊麗な音色と世界最高峰の妙技にぜひ触れたい。
元のページ
../index.html#26