eぶらあぼ 2017.9月号
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168術劇場(KAAT)のキッズ・プログラムは演劇が中心だったが、今年は森山開次のダンス作品『不思議の国のアリス』を行い、素晴らしい成果をあげた。劇団ロロ主宰の三浦直之の言葉遊びに満ちたセリフ、とくに衣裳のひびのこづえのハートの女王の衣裳が秀逸だった。直径4メートルくらいありそうなスカートの裏には透明なバルーンが多数仕込まれていて、斜めに回転すると一人メリーゴーランドのように舞台で映えた。様々な特殊効果が必要なシーンもダンサーの身体で切り抜けて、プロの醍醐味を見せつけていた。 また新形態の取り組みも始まっている。「Dance New Air(DNA)」の一企画として始まった「ダンス保育園」である。これは「フェスティバルの開催中、ダンサーやミュージシャンなど様々なアーティストが、子ども達を預かるキッズ・スペースでワークショップやパフォーマンスを行う」というもの。この「ダンス保育園」は、現在独立したプロジェクトとして、広く展開している。子育て中の観客のみならず、アーティスト自身も自分の子どもと一緒にフェスティバルに参加できる。なにより子どもが、現役のアーティストという、普通の生活ではちょっと出会うことのない類のオトナと直接触れあうことができるのだ。「一見ちゃんとしてないように見えても楽しく生きているオトナ」がいることを知るだけでも、子どもにとっては貴重な体験になるに違いないよ。第35回 「むかしのアレとはモノがちがうよキッズ・プログラム」 ちょっと前まで子どもを主たる対象にしたキッズ・プログラムといえば、情操教育に役立つとか、そんなふわっとした理由で行われていた。しかしいまは違う。世界のダンスフェスでも、メインプログラムには必ず入っている。しかも「よい子のみなさーん!」という昔の子ども番組のように媚びた物はない。ひたすらに、高水準の舞台を見せる作品が多いのである。もう本気度が、まるで違うのである。 その理由は単純で、「将来の観客を育てないとヤバイ」という危機感が、喫緊の課題になってきているからだ。 なにより先進国は軒並み少子化の道を歩んでいる。さらには助成金等でも「目に見える成果」をより問われるようになった。それが芸術的な達成度ならともかく、観客動員数だけを見て「費用対効果が薄い」などと言われたりする。「サッカーの試合なら数千人が入るけど、ダンス公演は数百人だ」というね、「それ、そもそも比べる対象か?」と思ってしまう会話を、けっこうな危機感混じりで海外のディレクターがしていたりするのだ。まあ日本でもかつて、どこかの府知事が伝統文化について同様のイチャモンをつけていたのは記憶に新しいけれども。 世界的には、国の援助を受けているダンスカンパニーが“お礼奉公”的に小中学校を回って公演をするところも多い。そこで野球やサッカーをやっていたヤツらが目覚めてダンサーになる、というケースもままあることだ。 日本でもすでに取り組みは始まっている。彩の国さいたま芸術劇場では近藤良平や康本雅子などに委嘱した『日本昔ばなしのダンス』を2006年からやっている。東京芸術劇場では連休のこどもの日にコンテンポラリー・サーカスを中心に家族で楽しめる「タクト・フェスティバル」が人気だ。神奈川芸Proleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com/乗越たかお

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