eぶらあぼ 2017.9月号
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156SACDSACDCDCDザ・バッハ/河野智美ショスタコーヴィチ:交響曲第8番/インバル&都響エンリケ・グラナドス:スペイン舞曲集/新井伴典&松田 弦ルース・スレンチェンスカの芸術ⅦJ.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番、「主よ、人の望みの喜びよ」、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番~シャコンヌ、ブランデンブルク協奏曲第6番第2楽章 他河野智美、大沢美月、田中春彦(以上ギター)ショスタコーヴィチ:交響曲第8番エリアフ・インバル(指揮)東京都交響楽団エンリケ・グラナドス:スペイン舞曲集、オペラ《ゴイェスカス》より間奏曲新井伴典、松田 弦(以上ギター)モーツァルト:ソナタ第17番/ラフマニノフ:13の前奏曲より第5曲 ト長調/ベートーヴェン:ソナタ第21番「ワルトシュタイン」/バーバー:夜想曲/シューマン:交響的練習曲 他ルース・スレンチェンスカ(ピアノ)アールアンフィニ(ソニー・ミュージックダイレクト/ミューズエンターテインメント)MECO-1039 ¥3000+税収録:2016年9月、サントリーホール(ライヴ)オクタヴィア・レコードOVCL-00635 ¥3200+税ウッドノート・スタジオWNCD-1023 ¥2700+税収録:2013年12月、台北(ライヴ) 他レグルスLIU-1012/13(2枚組) ¥4000+税「謳うギタリスト」と評判の名手・河野智美のアルバム第3弾は、オール・バッハ。作曲家と作品への敬意が、つぶさに伝わる快演だ。核となるのは、自身の編曲になる、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番。ギター編曲の場合、原曲では暗示に留められた和声を安易にリアライズしてしまうことも多いが、彼女はそれをしない。原曲を尊重し、全6曲の中で、この楽器に適した作品を精査し、ありのまま聴かせることに特化。結果的に、縦向きの拍節感よりも、横へのフレーズの流れが良い、ギターならではのバッハ像が浮き彫りに。併録の「シャコンヌ」や小品からも、瑞々しい感性が溢れる。(寺西 肇)当コンビのショスタコーヴィチ・シリーズ第5弾。マーラーや本シリーズの基本アプローチに揺るぎはなく、今作も苦悩や葛藤を速めのテンポと引き締まった彫琢で描いた、緊迫感と推進力漲る演奏だ。ここには同作曲家が苦手な人が嫌う重苦しさや暑苦しさはなく、強靭かつ鋭利な“凄み”が全体を支配している。それは、第1楽章の頂点の強烈な音塊、異例の速さで突き進む第2楽章の峻烈さ等に端的に表れているし、静かな場面での透徹した叙情味も類をみない。都響の機能性も驚異的。ロシア的感情移入型でも西欧的分析型でもない、唯一無二の凄絶な名演! (柴田克彦)欧州各地のコンクールで入賞を重ね、多くの名録音でも知られるギターの名手、新井伴典が、自らプロデュース、編曲、演奏を務める「ワン・コンポーザー・シリーズ」の第2弾は、グラナドス「スペイン舞曲集」。東京やアントニーほか多数の主要コンクールを制してきた俊才、松田弦とのデュオで、息の合ったアンサンブルと多彩な音色が光り、穏やかな空気感が心地よい。元はピアノ用の名曲集だが、ギターデュオ編曲版は響きの豊かさも劣らず、これが原曲かと錯覚するほど相性抜群で魅力的。昨年没後100年、今年生誕150年のグラナドスを記念する、小粋なCDがひとつ加わった。(林 昌英)角を押さえてゆくような律儀さの一方、音楽の流れはしなやか。全篇にわたって包み込むような優しさに溢れている。幼少から神童ともてはやされながらも、数々の苦難に見舞われ、それでも活動を続けたアメリカ人ピアニスト、ルース・スレンチェンスカ。これは、波乱の生涯を歩んできた89歳の老巨匠が、日本の友人の娘の結婚式のために準備したプログラムなどを、2002年以降、自ら教鞭を執った台湾・東呉大学のホールで披露した、感動的なライヴ録音だ。モーツァルトのソナタ第17番の冒頭3小節にあるシンプルな音型一つでも、静かな中に様々な表情が現れ出でて、その非凡さが聴いて取れる。(笹田和人)

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