eぶらあぼ 2017.9月号
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154CDCDSACDCDR.シュトラウス:交響詩ツィクルス[3]/ヤルヴィ&N響J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ/川田知子リスト「詩的で宗教的な調べ」/マルティン・カルリーチェクオスティナーティ/山田 岳R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」、メタモルフォーゼン(23の独奏弦楽器のための習作)パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)NHK交響楽団J.S.バッハ:ソナタ第1番・第2番、パルティータ第1番川田知子(ヴァイオリン)リスト:詩的で宗教的な調べマルティン・カルリーチェク(ピアノ)ジェームズ・テニー:七重奏曲/山根明季子:毒棘/鈴木治行:想起-迂回/川上 統:ゴライアスオオツノハナムグリ/山本和智:ドルドラム Ⅰa/松平頼暁:オスティナーティ/アルヴィン・ルシエ:月光に輝く散り敷ける落葉の上に 他山田 岳(アコースティック&エレクトリック・ギター 他)秋山徹次(語り)収録:2016年2月、サントリーホール(ライヴ)ソニーミュージックSICC10219 ¥3000+税8/23(水)発売マイスター・ミュージックMM-4013 ¥3000+税ナミ・レコードWWCC-7842~3(2枚組) ¥3500+税コジマ録音ALCD-114 ¥2800+税パーヴォ&N響のR.シュトラウス第3弾。「ツァラ」に見られる管の精緻なアンサンブルはもともとお家芸だが、今回は精度も一段と冴え、弦の粘りや重み、金管を中心にクライマックスに持っていくパワーや爆発力も文句なく世界トップ・レべル。「メタモルフォーゼン」は各パートをダブらせてうねるように進んでいき、往年のカラヤン&ベルリン・フィルを連想させる音圧に押しまくられる。もともとパーヴォは楽団の特性を見抜いてから音楽作りをしていくタイプだが、N響ではドイツ音楽の演奏伝統を踏まえ、緊迫感漲る音像を構築。これが首席指揮者に就任して半年での成果というのだから恐ろしい。(江藤光紀)シュポア国際コンクール優勝から25年以上トップ・ソリストとして活躍を続けている、川田知子によるバッハ「無伴奏」録音第1弾。CD冒頭、第1ソナタ第1音の絶妙な処理から一気に引き込まれ、全編にわたり「一音一音の緻密な解釈」と「自然な歌心」を両立した演奏に唸らされる。殊に難曲である各ソナタのフーガ楽章は特筆すべき水準。技巧もセンスも優れているのはもちろんだが、研究の成果としてこれほど自然体でしなやかな演奏を実現したことは、驚異的ですらある。川田の自在な「無伴奏」を現在進行形で聴けることは嬉しい限りで、後半3曲の録音にも期待が膨らむ。 (林 昌英)超絶技巧を駆使したピアノ作品を数多く残したリストだが、ピアニストとして活躍していた若い頃から宗教合唱曲を作曲するなど、彼の人生や音楽において、“宗教”という存在は重要な核を成すものであった。創作を開始してから出版までに20年もの時間が費やされた「詩的で宗教的な調べ」は、そんなリストの強い信仰心が反映された作品であり、自身の宗教合唱曲の編曲を3曲含むなど、“歌”への志向も見出すことができる。カルリーチェクは、“ピアノで歌う”ことに徹底して向き合い、美しく磨き上げられた音色を活かしてリストの敬虔な祈りの世界を描き出している。(長井進之介)現代音楽というジャンルの輪郭はますますぼやけているが、それは現代のアーティストが様式感や楽器編成などから、もはや完全に自由になっているからだろう。コンセプチュアルな鈴木治行、パーソナルな感情や関心を刺激的な表現へと結実させる山根明季子や川上統、特殊奏法の連続から身体性を浮かび上がらせる山本和智ら若手〜中堅の創作はいずれも極めて個性的で、そこにはなにがしかの様式的な同時代性すら見出せない。エレキからリュートまで無限に拡大する領野を名人芸で踏破する山田岳は、これらをまたルシエや松平頼暁ら上の世代の問題意識にぶつけることで、変化の相を浮き彫りにしてみせる。(江藤光紀)
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