eぶらあぼ2017.8月号
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57CD『J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ BWV 1001-1003/川田知子』マイスター・ミュージックMM-4013¥3000+税 7/25(火)発売 Photo:Yoichiro Nishimura川田知子(ヴァイオリン)自然な流れをもつバッハを目指して取材・文:柴田克彦Interview 長年ソリストとして活躍し、近年は東京フィルのゲスト・コンサートマスターも務める実力派ヴァイオリニスト、川田知子が、J.S.バッハの「無伴奏ソナタ&パルティータ」全曲録音の第1弾をリリースする。彼女は今年デビュー25周年。その記念盤かと思いきや、むしろ自然な流れで実現したという。 「2000年のバッハ没後250年に全曲を演奏し、手応えもあったのですが、その後バロック奏法等を意識するようになると、自分の解釈はまだまだだなと感じました。それに00年には、以前私が優勝したシュポア・コンクールの監督、ヴォルフガング・マーシュナー先生から集中して学んだにもかかわらず、生かせていなかった。しかしチェンバロの中野振一郎さんや小林道夫先生と共演を重ねてバロックの演奏法を学び、イザベル・ファウストのCDにも刺激を受け、あらためて全曲を見直していくうちに、自分なりのバッハを録音してもいいかなと。今回は、マーシュナー先生から教わった自然な流れのスタイルを反映し、今の自分をきっちり残せたと思っています」 彼女は、バッハの自筆譜(ファクシミリ)を見ながら演奏している。 「バッハは天才。宗教曲等を聴いても『本当に人間が作ったのか?』と思うほど凄いし、無伴奏ヴァイオリン曲は、その彼が書いた譜面が残っているのが素晴らしい。ここには4本の弦と1本の弓で描き得る目一杯のことが書かれていますが、演奏不可能な部分もあります。往年の名奏者たちは和音を逆から弾くなどの奏法で音を残してきたのですが、今それはやりません」 ではどうするのか? 「例えば和音の2番目の音だけを残すといった工夫をして、聴き手の耳に委ねる。でもそれに拘りすぎると音楽が死にますので、細かい工夫をどの位するのかを考え、フレージングの歪みもきちっと表現し、それでいて歌が聴こえ、モティーフが浮かび上がり、ない音も聴こえてくるような演奏を目指しました。これは同時進行の音を一遍に聴くコンマスの経験が役立った部分もあります」 第1弾には、ソナタ第1番・第2番とパルティータ第1番が収録されている。 「1番のソナタはドリア記譜法で書かれている深い和音が伝わるように、2番のソナタはイタリアンなイメージで、重厚な音の中に明るくポジティブな響きが出るように、パルティータの1番は、4つの舞曲の柱にドゥーブル(各曲に続く変奏)が寄り添い、対で完結するように弾き、全体にテンポ感に気を配りました」 実際に聴くと、ナチュラルな音楽に魅せられるし、「私のCDに厳しいコメントを寄せる母が、今回は『何度でも聴きたくなる』と言った」という川田自身のエピソードにも頷ける。 今後コンサートでも随時披露される予定なので、第2弾を含めて大いに注目したい。11/8(水)19:00 東京文化会館(小)問 コンサートイマジン03-3235-3777 http://www.concert.co.jp/他公演 10/29(日)港南区民文化センター ひまわりの郷(045-848-0800)、11/2(木) 高崎シティギャラリー(027-328-5050)、11/5(日) 長野市芸術館 リサイタルホール(信濃毎日新聞社事業部026-236-3399)アンリ・バルダ(ピアノ)円熟の名匠がもたらす深い詩情文:飯田有抄 ©Jean-Baptiste Millot フランスの名ピアニスト、アンリ・バルダが2年ぶりに来日し、横浜・高崎・長野・東京を巡るリサイタルツアーを行う。少し前までは、実演に触れられる機会が少なく、録音の数も限られているため「幻の巨匠」とも呼ばれたバルダだが、2000年代に入ってからは数年おきに来日し、繊細で、ときに奔放な、詩情溢れる演奏で聴衆を魅了してきた。 これまでショパン、ブラームス、ラヴェル作品を中心に聴かせてきたが、今年のリサイタルの核に据えたのはシューベルトだ。それも最晩年に書かれた最後のピアノ・ソナタ第21番という、崇高な美しさを湛えた作品である。演奏時間にして30分以上を要する巨大なソナタだが、バルダの語るような音楽が別次元の世界へといざなってくれることだろう。リサイタル前半はJ.S.バッハの「平均律」第1巻、そしてシューベルトは即興曲もプログラミングしている。74歳を迎えた巨匠の、新しい顔を知ることのできる夜となりそうだ。

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