eぶらあぼ2017.8月号
58/191
55トリフォニーホール 《ゴルトベルク変奏曲》 2017 キット・アームストロング(ピアノ)今までにない「ゴルトベルク」体験の予感文:高坂はる香8/29(火)19:00 すみだトリフォニーホール問 トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 http://www.triphony.com/ 今年は「ゴルトベルク変奏曲」を取り上げるピアニストが多い。そんな中でも、とくに気鋭の若手ピアニストがこれを弾くリサイタルでは、21世紀の新しい「ゴルトベルク」との出会いに期待してしまう。その筆頭といえるのが、すみだトリフォニーホールのシリーズ《ゴルトベルク変奏曲》 2017に登場するキット・アームストロングの演奏会だ。 巨匠ブレンデルがその才能に太鼓判を押す、数少ない弟子のひとり。1992年アメリカに生まれ、カーティス音楽院と英国王立音楽院で学び、パリ大学では数学の学位を取得。現在、フランスの古い教会を改装し、自らもそこに暮らしながら、演奏、作曲活動を行うというユニークな経歴でも注目を集めている。 アームストロングはルネサンス期の作品の研究にも力を入れており、今回も前半には、バード、スウェーリンク、ブルによるヴァージナル音楽を取り上げる。彼によれば、これら16~17世紀前半のヴァージナル音楽の大家たちは「鍵盤音楽の一つの頂点を築いた」と言え、続く時代を生きたJ.S.バッハの音楽には、その大きな影響が見て取れるという。 古い時代の作品ほど、演奏にまつわる資料は少ない。そんな中で正しい解釈を創るのは後世の音楽家であり、そうした「音楽から普遍的なメッセージを見つけて分かち合う」作業に自らも貢献したいと、アームストロングは話す。そんな彼だけに、今回はこのプログラムの流れの中で、新鮮で発見に満ちた「ゴルトベルク」を届けてくれることだろう。当日を楽しみにしたい。©Neda Navaeeトッパンホール17周年記念 バースデーコンサートシュニトケ&ショスタコーヴィチ プロジェクト1――室内楽息を殺して静かなる深淵に浸る文:柴田克彦10/1(日)17:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com/ 体制がもたらす歪みと闘いながら、芸術作品を生み出す…これはいかなる結果を導くのだろうか? かくもシリアスなテーマを抉り、旧ソ連の超ディープな作品のみを聴かせる公演が、トッパンホールの「シュニトケ&ショスタコーヴィチ プロジェクト1——室内楽」。これがシーズン開幕&バースデーとは、まさに同ホールの面目躍如だ。 まずはショスタコーヴィチのヴァイオリン・ソナタ。オイストラフ60歳の誕生祝いに書かれながら、悲劇的な表情に包まれた、辛口ゆえに実演が少ない名作だ。次いでシュニトケのピアノ五重奏曲。急逝した母を悼む悲痛な心象の中に透明な抒情美が滲んだ、同作曲家の最高傑作である。最後はショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第15番。亡くなる前年作の同曲は、全6楽章が変ホ短調のアダージョという異様な構成と、究極に切り詰められた音を通して、闘い続けた天才の死への思念が切々と綴られる。 ヴァイオリンは、強靭かつ鋭利な表現を持ち味とする山根一仁。彼は、トッパンホールのシリーズ〈エスポワール〉でも両作曲家を演奏し、成果をあげている。ピアノは、知的かつ繊細なアプローチが光る北村朋幹。山根とは絶妙なコラボを展開しており、その音色とセンスは、ピアノが重要なシュニトケ作品にも相応しい。そしてモルゴーア・クァルテット。1992年の結成以来、ショスタコの弦楽四重奏曲の全曲演奏を再三完遂してきた彼らは、一朝一夕では成し得ない深みを表出し、20代の二人にも良き示唆を与えるに違いない。 呼吸もできないほどの緊張感が張り詰めた音楽の深淵…ときにはそんな時間に浸るのもいい。モルゴーア・クァルテット ©Norikatsu Aida北村朋幹 ©TAKUMI JUN山根一仁 ©K.Miura
元のページ
../index.html#58