eぶらあぼ2017.8月号
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178作るのである。そういうのはここ一番でじっくり聴かせるシーンではたまにあるのだが、彼らは基本的にどのシーンでも丸ごと使うのだ。曲によっては長い間奏や、しつこいリフレインがあるが、気にしない。そこに倍する密度のダンスを入れてくるからである。普通は歌詞と動きがリンクすると「歌の魅力にダンスが寄りかかった、説明くさいシーン」となってしまう。しかし梅棒は、たとえば何かを食べる仕草の時にフッと「マズい」という歌詞がリンクする、という一瞬の交通事故のような重なり方が見事で、さらなる爆笑を誘うのだ。 7月に全国ツアーを終えたばかりの梅棒新作『ピカイチ!』は絶品だった。舞台は高校。生徒会選挙、イケメンの転校生、いかつい運動部、クラス一番の可愛い子、密かに舐められるリコーダー、実体化する学校の七不思議など、バカでキュートな要素がてんこ盛りだ。素晴らしいのは演出が的確で各人のキャラ立ちが強烈なため、ちゃんと群像劇として成り立っていることである。トイレの花子さん役の魚地菜緒はなんとわずか17歳なのだが、ど迫力のパワームーブで会場を沸かせ、妖怪ながら切ない愛を告白する場面では涙を誘った。 ここからダンスに目覚めていく観客もいるだろう。コンドルズのような、ダンスの間口を広げる存在としても期待したい。第34回 「バカでキュート、そして炸裂するダンスと演技の『梅棒』」 とりあえず「舞台の上をグルグルと走っているだけのダンス」と、「出演者が密集し、斜め上空を見あげて何かを訴えるかのように熱唱するミュージカル」にロクなものはない。うんざりするほど手垢のついた方法なのに、うまいことやっていると思っている感じが伝わってきて、じつに辛いのだ。 ことにダンス公演には、たまに「何かの拍子に潤沢な予算がついてしまったような公演」がある。「とりあえず海外で活躍している見栄えのいいバレエダンサーを数人みつくろって、ヒップホップも入れて見せ場を作り、全体は役者をいれて芝居仕立てにする」というのがほとんど。そのストーリーがまたチャチで、絵本の世界に入ったり、タイムスリップしたりとファンタジー色が強め。これはダンスをバラバラに作っても構成が楽なうえ、統一感の無さをバラエティの富かさと思いがちだからだ。肝心のセリフがまた寒い。最近みたある舞台では、「とほほ」というセリフを、「あえて使うことで、逆にアリ」ではなく、普通にセリフとして使ってやがんの。どうも「ダンスの演劇的な演出は、この程度でいいよね」という謎のラインがあるように思えてならない。 だがもちろん、突き抜けているものはある。とくに伊藤今人率いるダンスカンパニー梅棒(うめぼう)は、笑いのセンスに、キレたダンスが光る。彼らのベースは「ひと昔前のもの」とされていたジャズダンスなのだが、濃密でメリハリの効いた振付は新次元の魅力を引き出している。感情を表しストーリーを語る上でじつに有効で、「こんな使い方があったのか」と驚かされることしきりだ。 なにより特徴的なのが「歌謡曲一曲使い」である。ほぼセリフなしでダンスだけで見せていくのだが、歌謡曲をまるまる一曲かけっぱなしでシーンをProleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com/乗越たかお
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