eぶらあぼ2017.7月号
179/201

192ジ」とシンガポールの振付家が発表する「ダイバーシティ」というふたつのプログラム。 特にオープン・ステージは100を超える応募作から10作品が選ばれた。チェ・ユンヒュン(韓国)&チョン・ソンユ(シンガポール)の作品『Silentium』は、ノイズが響く闇の中に裸の男の上半身が白い照明で浮かび上がる。首から下へ、下腹部から上に向かって不定期に点滅する照明で、身体が刻々と位相を変えていく。ノイズの中に女の歌がかすかに聞こえて不気味なうえ、どうも腕が4本あるらしいことに気づく(後ろから女が手を出しているのだ)。ワンアイデアだけで見せきる度胸と実力に感心した。 日本の福岡ダンスフリンジフェスからスィ・ブンが選出したのが木原浩太&四戸由香『Body Language』。動けば実力のある二人が、ふっと抜いて笑いを誘い、舞台上に伸び伸びと存在してくれる心地よさに会場から声援が送られた。他に「巧さを隙間なく詰め込んでいる作品」もあるのだが、面白みがないのだ。技術が身についたら、それを外せる余裕が必要になる。そのためにもどんどん創って人前で上演していくことだ。 これらの作品の一部が福岡フリンジとソウルのNDA(ニュー・ダンス・フォー・アジア国際フェス)というオレがアドバイザーをしているフェス、そしてスペインのMASDANZAフェスに招聘される予定だ。お楽しみに!第33回 「シンガポールのフェスで真のダイバーシティを見る」 きょうびのフェスでは誰もがダイバーシティ(多様性)を口にするが、多くは多少外国人がいる程度。しかし6月の頭から行われているシンガポールの「M1 CONTACT コンテンポラリーダンス・フェスティバル(以下、M1)」は、そのわずか2日間のプログラムだけを見てもシンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、韓国、日本、台湾、オーストラリア、スイス、アメリカ、ウクライナ等々…と、本当の意味での多様性のあるプログラムとなっている。芸術監督のクイック・スィ・ブンは自身の「T.H.E.ダンスカンパニー」が昨年の横浜ダンスコレクションに招聘されているので、記憶にある人も多いだろう。 スィ・ブンは改革者である。シンガポールは資源に乏しいため、観光立国・文化立国たることを宣言し、力をいれている。舞台芸術では演劇が目覚ましい成果を上げたものの、ダンス面ではいまひとつだった。そこで2007年、ナチョ・ドゥアトが芸術監督だったスペイン国立ダンスカンパニーで活躍したスィ・ブンが帰国してダンスカンパニーを結成、10年にフェスを立ち上げたのだ。 会場は複合的な芸術施設のエスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイだ。まずは海辺に張り出した屋外ステージでの「ダンス・アット・ダスク」。日没(ダスク)にかけて変わりゆく夕景を背景に踊るのである。2演目あり、ひとつはスイスを拠点にするコンテンポラリー・サーカスを選んでくるあたり、世界の動向をよくわかっとるね。 ふたつめはスィ・ブンの作品『Helix, in progress』。これが本当に良く、本域の力をみせつけた。魅力的な動きのディテールが高い技術で精緻に踊られつつも、舞台全体のダイナミズムがさらに凌駕していった。 今回のメインは、公募による「M1オープン・ステーProleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com/乗越たかお

元のページ  ../index.html#179

このブックを見る