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55大野和士(指揮) 東京都交響楽団名匠たちが仏・独の傑作で魅せる“音の風景画”文:江藤光紀世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演 勅使川原三郎『ABSOLUTE ZERO 絶対零度 2017』勅使川原の美学が結晶化された名作、待望の再演文:立木燁子第834回定期演奏会Cシリーズ6/21(水)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 都響ガイド03-3822-0727 http://www.tmso.or.jp/6/1(木)~6/4(日) 世田谷パブリックシアター問 世田谷パブリックシアターチケットセンター03-5432-1515 http://setagaya-pt.jp/ 6月の都響定期は音楽監督の大野和士が登場、3つのプログラムを振るが、どれも選曲が絶妙で、それぞれに違った味わいが楽しめそうだ。曲の流れにどんなストーリーを重ねるかは人それぞれだが、ここでは6月21日のプロに焦点を当ててみよう。 プログラムを貫くテーマは“自然”。まずドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」で幻想的に幕を開ける。半音階で揺らめくフルートのソロに始まり、曖昧模糊としたオーケストレーションから鳥のさえずりやあくびの所作を思わせるフレーズが聞こえてくる。音の桃源郷がけだるい牧神の午睡を描きだす。 続いてヴァンサン・ダンディ「フランスの山人の歌による交響曲」。3楽章構成・曲中に統一感をもたらす循環主題の使用など、フランスの交響曲のスタイルを踏まえた本曲では、仏南部の山岳地帯セヴェンヌ(ダンディの故郷のような場所)の民謡を元にした素朴な旋 世界のダンス・シーンの最前線に立ち続ける鬼才、勅使川原三郎。その活動は近年ますます意欲的だ。発想を形にする貴重な実験場、作品のインキュベーターの役割を果たすアパラタスにおける公演でさえ常に完成度が高く、観客の眼差しのなかで燃焼しつくすその姿は崇高ですらある。国際的にも評価が高く、パリ・オペラ座はじめ海外の名門劇場からの招聘も目白押しだ。 世田谷パブリックシアターの開場20周年記念公演の一環として、その勅使川原の伝説的な作品、『ABSOLUTE ZERO 絶対零度』(構成・振付・美術・照明:勅使川原三郎)が18年ぶりに再演される。1998年、「創作における徹底した抽象」を目指したひとつの到達点として、勅使川原の美学が結晶化した舞台。 無駄なものを削ぎ落とし、純化された動きには一分の隙もなく、研ぎ澄まされた感性そのものがシャープな動きとなり、フォルムとなって舞台上に立ち現れるかの印律が繰り返し現れる。全篇きらびやかなピアノ独奏に彩られているが、今回はフランス音楽のプロフェッショナル、ロジェ・ムラロが朴訥な歌にたっぷりとエスプリをまぶしてくれるはずだ。 後半はドイツに移り、ベートーヴェンの「田園」。都会から田舎、さらに川べりの散歩へ。村人たちの踊りに足を象を与える。 創作上、想定されるのが摂氏マイナス273度という到達不可能な「エントロピー・ゼロ」の世界。勅使川原は、静止の極致で極小単位として始まる異質な動きをダンスとして掬い取ろうとする。真空では微小な動きが増幅するという。絶対的停止と増幅される動き。瞬時に消滅と起生を繰り返すダンスの原点を見つめる作品と言えよう。 初演からまもなく20年。モーツァルトのクラリネット協奏曲の澄んだ音色にのって衰えを見せない勅使川原の踊止めているうちに激しい雷雨に遭遇する。それがすぎると、再び弾むような気分が帰ってくる。 独仏両国の劇場を率いた大野が都響の音楽監督に就き丸2年、すっかり顔となった。そのタクトから放たれるマイナスイオンを胸いっぱいに吸いこんでほしい。大野和士 ©Rikimaru Hottaロジェ・ムラロ ©Bernard Martinezりが冴える。類稀なパートナー、佐東利穂子とのデュエット。互いに刺激し合い、昇華しながら、2人の化学反応が何を生み出すか見届けたい。©Akihito Abe

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