201706
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29曲集」と名付けられた、親しみやすい小品集です。内容的にも暢さんの魅力を充分に感じて頂けると思います。 澤 素晴らしい演奏が揃っていますね。それに選曲がいい。例えばクライスラーの「美しきロスマリン」ですが、伸びやかな歌心と弾むようなリズム感の表現が見事です。それと、中間部で短調に転調したときのヴァイオリンの音色が、翳を帯びたように哀感を漂わせる。曲想に対する感性と、それを表現できるテクニックが凄いです。サラサーテの「アンダルシアのロマンス」を聴いていると、眼の前をカルメンが歩いているような錯覚に襲われます。この二つの曲、小品ではありますが、まさに息を呑むような瞬間が幾度も訪れます。ファリャの「スペイン民謡組曲」も絶品です。凄いヴィルトゥオジティも伝わってきますね。 武藤 暢さんの演奏においては、特にカンタービレやエスプレッシーヴォの表現に強く心惹かれます。情熱が迸るような熱い想いが、ストレートに伝わってきます。未発表なのですが、若林さんの弾くモーツァルトのヴァイオリン・ソナタなども実に端正で気品があって本当に素晴らしいです。 澤 知性のコントロールが行き届いているのでしょう。時代様式、様式美に対する理解と弾き分けが正しくできる方でした。しかも、どんな曲を弾いても、背後に若林暢という個性が凛として存在している。彼女のジュリアード音楽院で取得した博士課程の学位論文も、近く書籍として発売されるそうです。まさに稀有な音楽家でした。彼女の存在をぜひ、多くの方々に知っていただきたいですね。構成・文: 中野 雄(音楽プロデューサー)Information『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集』ブラームス:ヴァイオリン·ソナタ第1番『雨の歌』・第2番・第3番若林暢(ヴァイオリン) キャスロン・スタロック(ピアノ)1991年録音 MHCC30004 ¥2500+税『ヴァイオリン愛奏曲集』クライスラー:美しきロスマリン/パガニーニ:カンタービレ/サラサーテ:アンダルシアのロマンス、ツィゴイネルワイゼン/ファリャ(コハンスキ編):スペイン民謡組曲 他若林暢(ヴァイオリン)、アルバート・ロト(ピアノ)、江口 玲(ピアノ)1999年~2011年、カザルスホール他でのライヴ収録MHCC30005 ¥2500+税ソニー・ミュージックダイレクトより6月21日(水)発売若林暢CD発売記念コンサートⅠ6/21(水)王子ホール 19:00ワルタ・アウアー(フルート)、アルバート・ロト(ピアノ)王子ホール19:00 問 若林暢音楽財団03-5291-7680※上記の公演以外にもチャリティコンサートなどが開催されます。詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。問 一般財団法人若林暢音楽財団03-5291-7680http://wakabayashi-nobu.com/〈後記〉この6月に発売される『ブラームス:ヴァイオリン·ソナタ全集』と『ヴァイオリン愛奏曲集』の2枚のディスクは文字通り「名盤」と呼ぶにふさわしい、極上の名演である。一音入魂、若林暢というヴァイオリニストは、存在自体が奇跡であった。多くの人に聴いてもらえることを願うばかりである(中野 雄、記)。Prole澤 和樹(右) 1979年東京芸術大学大学院修了。「安宅賞」受賞。ロン=ティボー、ミュンヘンなどの国際コンクールに入賞。イザイ・メダル、ボルドー音楽祭金メダル受賞などヴァイオリニストとして国際的に活躍。1990年、澤クヮルテット結成。96年より指揮活動を開始。東京フィル、日本フィル、九響、札響等にも客演し好評を博す。2004年、和歌山県文化賞受賞。東京芸術大学音楽学部教授、音楽学部長を経て16年4月より東京芸術大学学長。英国王立音楽院名誉教授。武藤敏樹(左) 音楽プロデューサー。東京芸術大学音楽学部ピアノ科卒業。日本レコード大賞企画賞、国際F.リスト賞レコードグランプリ最優秀賞、文化庁芸術祭優秀賞他プロデュースしたCDアルバムで多数受賞。ソニー・ミュージックダイレクトとミューズエンターテインメントのパートナーシップによるクラシック専門レーベル「アールアンフィニ」を主宰プロデュース。若林暢音楽財団理事、FMヨコハマ・DJナビゲーター、東京メトロポリタンオペラ財団エグゼクティブ・プロデューサー。クラシック音楽の普及に努めている。写真:武藤 章

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