eぶらあぼ2017.5月号
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70CD『マズルカ・アパシオナータ~ベスト・オブ・バリオス~』マイスター・ミュージックMM-4007¥3000+税4/25(火)発売福田進一(ギター)1932年製の名器で聴く、バリオスの世界取材・文:オヤマダアツシInterview テレビの紀行番組やドキュメンタリーなどで、ふと耳にする心地よいギターの曲がある。1885年に南米のパラグアイで生まれたギタリスト、作曲家のアグスティン・バリオスによる作品は、意外なほどあちらこちらで耳にすることが多い。ギター音楽シーンでは国際コンクールの課題曲になるほど有名な作曲家だが、日本でも早くから演奏してきたギタリストの一人が福田進一だろう。4月25日に発売されるCD『マズルカ・アパシオナータ~ベスト・オブ・バリオス~』は、福田ならではの審美眼で選曲・構成された作品集だ。 「ヨーロッパから伝わってきたワルツやマズルカなどのダンス音楽を、自分なりのテイストを加えながら作曲・演奏していたギタリストで、ワルツなどはクライスラーの曲を思い出すほど。技巧的な難易度は高いものが多いですけれど、現在のギター音楽界ではよく弾かれています。ブラジルのヴィラ=ロボスなど多くの作曲家にも影響を与えていますし、武満徹さんは『追憶のショーロ』がお好きで、荘村清志さんによくリクエストをしていたようですね。パラグアイでは紙幣に肖像が使われたほど国民的な音楽家なのです」 全21曲を収録しているが、福田自身にとって再録音も多く、バリオスの作風を俯瞰できるような構成になっている。 「好きな曲ばかりを集めたのではなく、ワルツやガヴォット、マズルカなどカテゴリーとして分けられるものをグループ化し、それぞれの中から2~3曲選びました。ですからバリオスの全体像が把握できる内容になっています。『大聖堂』『最後のトレモロ』『蜜蜂』など、広く知られている曲も収録しましたので、たくさんの方に楽しんでいただけるでしょう。マイスター・ミュージックでの録音はバッハやヴィラ=ロボスなど、すでに10枚以上になりますが、ほとんどの場合は楽器ありきの企画とプログラムです。今回もスペインのサントス・エルナンデス(1932年製)という素晴らしい楽器が手に入り、ちょっと乾いていて独特の色気がある音色を生かすため、バリオスを選びました」 これまでリリースしたCDだけでも100枚に届こうかというキャリアだが、日本における南米ギター音楽の普及は福田がパイオニア的な存在。それだけに、ギターの繊細な音をヴィヴィッドに収録したこのCDで雄弁な演奏が聴けるのはありがたい。今さらではあるかもしれないが、バリオスの音楽がもっと多くの、新しい聴き手と出会えることを祈って。5/9(火)18:30 日経ホール問 日経ミューズサロン事務局03-3943-7066http://www.nikkei-hall.com/第460回 日経ミューズサロン シプリアン・カツァリス(ピアノ)28回目の来日でオール・シューベルト・プロが実現文:高坂はる香©Carole Bellaïche 60代半ばを迎えた今もなお、エネルギッシュで意欲的な活動を続ける天才肌のピアニスト、シプリアン・カツァリス。1986年の初来日から回を重ね、28回目の日本訪問となるという今回は、「日経ミューズサロン」に出演し、オール・シューベルト・プログラムを演奏する。 彼にとってシューベルトは大切なレパートリー。とくに今回の演目の一つである最後のピアノ・ソナタ第21番D960は、若き日から現在まで繰り返し演奏しているもの。作曲家最晩年の作品に寄せるカツァリスの思い入れは大きい。 カツァリスといえば、ベートーヴェンの交響曲ピアノ独奏版全曲録音によって音楽界で評価を高め、“鍵盤の魔術師”の異名をとることでも知られる。それだけに、ピアノ一台からオーケストラに匹敵するさまざまな色や表情の音を引き出す才に長けている。穏やかな対話が繰り返され、ときに心の内を吐露するようなシューベルト最後のソナタでも、その豊かな表現力が存分に発揮されることだろう。©Takanori Ishii

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