eぶらあぼ2017.5月号
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25満を持して取り組む豪華で多彩な音楽祭取材・文:柴田克彦 写真:中村風詩人 諏訪内晶子が芸術監督を務める第5回国際音楽祭NIPPONが、5月と7月に開催される。2013年に始まった同音楽祭は、「トップ・クオリティ」「イントロダクション・エデュケーション」「コラボレーション with アート」「チャリティ・ハート」を4つの柱にした多角的な取り組みが特徴だ。 「企画や運営に関わる公演は、通常の演奏とはアプローチの質が違う気がします。出演や内容の交渉も直接行いますし、企画の主旨を話して出演をお願いすると、皆さんの理解が深まり、新たな展開や繋がりも生まれます」 これまで大規模な回と小規模な回が交互に行われてきた。 「今回は5回目の記念という位置付けで、双方をまとめた形にしました。チャイコフスキー・コンクール優勝者、私が古くから共演してきたアーティストが揃って出演する点が大きな特徴。委嘱作品や、才能ある若い人に舞台を踏んで欲しいとの願いで行っているマスタークラス受講生の演奏にも、引き続き力を入れています」 オープニングは「世界的チェリストと巡る江戸時代と西洋の音楽」。ブルネロのレクチャー付きコンサートだ。 「日本独自の文化が生まれた江戸時代の美術品の宝庫である名古屋の徳川美術館で、同じ時代のイタリア等の曲を演奏する企画。ブルネロも大変乗り気で、珍しいギターとのデュオを提案してくれました。こだわりの強い方なので、興味深いコンサートになるでしょう」 次いで「諏訪内晶子&マリオ・ブルネロ&ボリス・ベレゾフスキー 特別公演」。チャイコフスキー・コンクールの1990年ヴァイオリンとピアノ、86年チェロ部門の優勝者が集う豪華な公演だ。 「3人での演奏は初めて。特にブルネロとベレゾフスキーは意外な組み合わせではないですか? ブルネロは共演者によって随分変わりますし、どんなトリオになるのか楽しみです。今回は個々の持ち味も聴いていただきたいので、ベレゾフスキーがソロ、私とブルネロがコダーイの二重奏曲を弾いた後に、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲『偉大な芸術家の思い出』を演奏します。同曲はバランスや聴かせ方の整理が必要ですが、10本の指が同じ長さではないかと錯覚するような音色をもつベレゾフスキーは、その辺のコントロールが上手だと思います」 そのベレゾフスキーとの「デュオ・リサイタル」もある。 「彼は個性が強烈ですから、レギュラーではなく、“火花”を求めるときに共演したいアーティスト。15年ぶりの共演なので楽しみです。特にヤナーチェクのソナタは、90年代に録音も行い、“ピアノの雫”のような音の感じや狂気に近い部分が表現されていましたし、ベートーヴェンもベレゾフスキーと弾くと新鮮な音楽になります。また彼が希望したR.シュトラウスのソナタは、ピアノが活躍する作品。並外れた技巧をもつ彼が弾けば、従来とは違った魅力が期待できます。また、藤倉大さんの委嘱作品についてですが、今回のヴァイオリンとピアノのための作品からヴァイオリンのカデンツァ部分を抜き出し、さらに2パターンをソロで演奏できるように、書き上げてくださいました。今後、オーケストラとの共演後のアンコールなどでも演奏していきます」 もう1つ、「レナード・スラットキン&デトロイト交響楽団」も見逃せない。 「スラットキンさんとは20年近く共演しています。今回は、前半にマエストロと親交があった武満徹の『遠い呼び声の彼方へ!』と、スラットキンさんの両親がハリウッドのオーケストラで活躍(父が指揮者、母がチェリスト)していたということで、マエストロゆかりのコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲で共演します。後半はロシア人の祖父を持つスラットキンさんが振るチャイコフスキーの交響曲第4番。『遠い呼び声〜』のタイトルは、ジェイムズ・ジョイスの最後の作品『フィネガンズ・ウェイク』からとられたものです。オケ全体で表現され、コルンゴルトもオーケストレーションが素晴らしい。ウィーン風のホイップクリームたっぷりの甘さや、第3楽章の映画音楽的な面も魅力です」 このほか、谷川俊太郎のテキストによる「動物の謝肉祭」や諏訪内と戸田弥生のヴァイオリン・デュオが注目の「コラボレーション・コンサート“言葉と音楽”」、初めて岩手県(久慈)で行う「被災地支援コンサート」(マスタークラスの選抜奏者がソロを弾くヴィヴァルディ「四季」など)、諏訪内と「音楽的方向性が同じ」という戸田弥生やブルネロが教える「マスタークラス」など、多彩な企画が目白押し。諏訪内の意欲が漲る各公演は、どれも食指をそそられる。Prole1990年史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。これまでに小澤征爾、マゼール、デュトワ、サヴァリッシュらの指揮で、ボストン響、フィラデルフィア管、パリ管、ベルリン・フィルなど国内外の主要オーケストラと共演。エリザベート王妃国際コンクールヴァイオリン部門審査員。また、国際音楽祭NIPPONを企画制作し、同音楽祭の芸術監督を務めている。デッカより14枚のCDをリリース。使用楽器は、日本音楽財団より貸与された1714年製作のストラディヴァリウス「ドルフィン」。

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